今回の調整局面で、過去と根本的に異なること
3行破綻の直後、米金融当局は迅速に預金保護や緊急融資制度を発表した。米財務省やFRBは、リーマンショックの教訓を強く意識しているだろう。また、近年、米大手金融機関の財務内容は強化されてきた。
そのため、3行の破綻が連鎖倒産を引き起こし、米国で金融システム不安が発生する展開は今のところ想定しづらい。世界経済の先行き不透明感は高まったものの、現時点では、米国を中心に世界経済が腰折れになるリスクは抑制されていると考えられる。
しかし、今回の調整局面で、過去と根本的に異なることがある。インフレ圧力が依然、強いことだ。FRBやECB(欧州中央銀行)が、政策金利を引き下げて景気減速・後退懸念に配慮することは難しい。2月、米国では時間当たり賃金が前年同月比4.6%上昇した。失業率も3.6%に上昇したが、依然として労働市場は過熱気味だ。
金融システムが相応に落ち着きを保つ可能性を踏まえると、FRBは物価目標の実現に向けて慎重に金融引き締めを続けるだろう。そして、わが国の日本銀行の置かれた状況はさらに厳しい。国債市場の流動性の低下などを背景に、日銀は慎重かつ段階的に、金融政策の追加修正を進める公算が高い。
今後、FRBをはじめとする中央銀行は、(1)インフレ鎮静のために金融引き締めを続けつつ、(2)緊急融資の実施などマネーゲームの後始末を進め、(3)過度に景気が落ち込まないよう金融政策も調整する、三つの課題を克服する必要がある。これは、かなり難しいかじ取りを余儀なくされる。
今すぐではないにせよ、金融引き締め長期化への懸念が高まり、株価下落が鮮明になる恐れは否定できない。それは、米国の個人金融資産の毀損(きそん)や、世界的なリスクオフの激化による新興国の債務問題の深刻化につながりかねない。
世界的な超低金利環境が長引いた分、世界経済や金融市場の「潜在的な病巣」が複雑化・深刻化したともいえる。その状況下、相対的にはわが国の金融システムは健全であり、金融不安が再燃すると怯える必要はないだろう。海外経済の変調への耐性はあると考えられる。
ただ、わが国の金融政策の「自由余地」はかなり限定されている。何か不測の事態が発生したとき、わが国の政策対応には大きな限界がある。その点は懸念されることを忘れてはならない。