「理想の自分」と「現実の自分」のギャップが緊張を生む

――こう言うと失礼かもしれませんが、同じ人間なんだなと、ちょっと安心しました。プロの芸人さんでも、心が折られながらなんとかそれを乗り越えているわけですよね。それなら、一般人の私たちが、人前で話すのに緊張するのも当たり前だよな、と。

本多 そうそう、そのとおりです。緊張して当たり前です。それに、緊張することそのものが悪いわけでもありません。緊張に押しつぶされて、本来の実力を発揮できないのが問題なんです。

――ある程度の緊張感はあってもいい、ということでしょうか。

本多 トップレベルで活躍しているお笑い芸人ほど、緊張状態に置かれても、本来の実力を発揮できるものです。逆に、芽が出ない芸人は、緊張に押しつぶされてしまうような印象がありますね。

 緊張をエネルギーに変えることができるかどうかが、「売れる芸人」「売れない芸人」のわかれ道かもしれません。

本多正識

――ビジネスの世界でも、就職活動の面接や、商談、営業、プレゼンなど、緊張するような場面がたくさんあります。「緊張をエネルギーに変える」には、どうしたらいいでしょうか。

本多 私は、緊張とは「理想の自分」と「現実の自分」のあいだにギャップを感じ、恐怖が頭をよぎったときに起こるものだと思っています。

 たとえば、大人数の前で20分間、商品のプレゼンをしないといけない。「スマートにすらすらと話したい」と理想を抱くものの、実際には、すべてが完璧にすすむことはほとんどなくて、噛んでしまうこともあれば、覚えたはずのセリフを忘れてしまうこともありますよね。その悪いイメージを想像してしまったときに、人は、緊張状態に陥るのだと思います。

――たしかに、話すことが具体的に決まっていないなど、準備不足のときほど、緊張感が強くなる気がします。

本多 そうなんです、そう考えると、「理想の自分」になるまでの道筋がはっきりと見えているときは、緊張に押しつぶされることはなく、むしろ余裕を持って話すことができるのだと思います。

 実は、「緊張」と「余裕」は違うものではなく、表裏一体のもの。「緊張」と「余裕」の共通点は「理想の自分」のイメージがあることで、相違点は、実現までの道のりが見えているかどうか。「理想の自分」に届くように「段取りや準備」をしていれば、緊張して焦ってしまっても、余裕を取り戻せると思います。