
化学品やエネルギーの輸送を手掛ける飯野海運。2025年3月期の業績はコロナ禍に次ぐ過去3番目に高い水準だが、中期経営計画で定めた30年目標の達成には船隊規模拡大が必要不可欠だ。特集『海運激変! トランプ関税下の暗夜航路』の#5では、大谷祐介社長が目標達成に向けた羅針盤「IINO MODEL」の狙いと、旗艦ビルである飯野ビルへの思いを語る。(ダイヤモンド編集部 田中唯翔)
ケミカルタンカー大手の飯野海運
独自戦略「IINO MODEL」とは何か
――飯野海運の一番の強みを教えてください。
エチレングリコール、リン酸などを輸送するケミカルタンカーが一番大きな事業です。飯野海運は業界トップクラスのケミカル船隊を運航しており、この事業では世界的にも飯野海運の名が通っていると自負している。液化石油ガス(LPG)や液化天然ガス(LNG)を輸送するガス船の事業にも力を入れています。
これらの事業には、アンモニアやメタノールなどの次世代燃料の輸送も含まれる。飯野海運の長所であると同時に、今後世界中で需要拡大が見込める分野なので、引き続き伸ばしていくつもりです。
2025年3月期の各利益は過去3番目に高い水準でしたが、過去最高益を達成した新型コロナウイルス禍に比べると数字的にはあまり伸びなかった印象です。さらに主力のケミカルタンカーの市況が去年の途中から悪化傾向で、25年4月以降も良くない状況が続いている。
――市況が軟化する中で、米国のトランプ大統領の関税政策や中国建造船などに対する入港料の課徴の事業への影響をどのようにみていますか。
大手海運会社が展開する自動車やコンテナの輸送には非常に大きな影響があると思いますが、われわれはそれらの輸送を行っていない。従って今のところは直接大きな影響があるとは思っていない。
米国と中国の間の船舶の往来も当社は実は多くありません。年間で数航海程度なので、万が一の場合は回避して違う商売を見つけていけばよいというスタンスです。
ケミカルタンカーは中東を起点にアジアや欧州への輸送がメインのビジネスなので、米中の貿易摩擦の中で飯野海運の強みがある程度発揮できると思っています。
――海運業は中長期契約と市況の影響を受けるスポット契約のバランスを取るのが難しいと聞きます。
スポットの比率を上げていくと、市況がいいときは業績も良くなりますが、経験上市況が悪かったときの方が長い。それが歴史の中で培った一つの結論で、海運事業のボラティリティがあまり出ないポートフォリオを組むことを意識しながら経営しています。
――それが、海運業と不動産業を両輪で展開する飯野海運のビジネスモデル「IINO MODEL」でしょうか。
次ページでは、大谷社長が独自のビジネスモデル「IINO MODEL」の狙いと旗艦ビルである飯野ビルへの思いを語る。