「日銀は利上げのチャンスを逸した!」山口元副総裁が見通すトランプ関税の深刻影響Photo by Kuninobu Akutsu

物価上昇と実質賃金の低迷が日本の個人消費を圧迫している。トランプ政権の関税政策は日本経済にも深刻な影響を及ぼす。今後の景気・物価動向、利上げの行方、大規模緩和からの出口戦略とそれがもたらす経済・市場への影響について、日本銀行元副総裁である山口廣秀・日興リサーチセンター理事長へのインタビューを2回に分けてお届けする。前編では、日米経済の現況、利上げの見通しなどについて語ってもらった。(構成/ダイヤモンド編集部編集委員 竹田孝洋)

国内景気は減速も
3%超の物価上昇続く

――2025年1~3月期の日本のGDP(国内総生産)成長率は前期比年率0.7%減と、マイナスでした。景気をどう見ていますか。

 物価上昇に賃金の伸びが追いつかず、実質賃金の伸び率はマイナスが続いています。これからボーナスが支給されれば、マイナスの幅は縮小するでしょうが、消費者の実質購買力が大きく回復することは期待できませんから、当面消費が増えるような状況ではありません。

 トランプ関税の不透明さは消費者に対して漠然とした不安を与えて、消費活動にブレーキをかける要素になっています。総じて、国内の個人消費は、物価上昇もあって低迷しつつあるとみています。

 企業は、トランプ政権による関税政策の先行きに対して非常に警戒感を強めています。設備投資は一進一退で推移せざるを得ません。

 現在の日本経済を支えているのはインバウンド需要です。日本に入国する外国人観光客数は増えており、目先インバウンド需要の伸びは続くでしょう。

 このようにインバウンド需要による景気下支えはありますが、物価の上昇が続き、またトランプ政権の高関税政策に伴う先行き不透明感もあって、国内景気は、全体としては当面減速するとみています。

――足元の物価動向は。

 米に代表されるように食料品の価格は高騰していますし、賃金上昇に伴いサービス価格も高くなっています。実勢としては前年比で3%を上回る物価上昇が続いています。これからも当面、同じレベルでの上昇が続くとみています。

景気が減速するなか、物価上昇は続く。利上げの姿勢を崩さない日銀はどこまで金利を引き上げられるのか。物価を巡る構造変化とともに政策金利の見通しを山口氏が語る。