売り手市場での採用活動で企業が心がけたいこと

 オンラインを駆使した情報の発信や学生との接触は企業によってかなりの差があるようだ。そして、採用活動においては、オンラインツールを活用するだけでは不十分だと、作馬さんは解説する。

作馬 そもそも、コロナ禍で、学生と企業のコミュニケーションが大きく変化しました。コロナ以前は、企業説明会にしろ、面接にしろ、対面が基本で、「冗長性(リダンダンシー)」のあるコミュニケーションが可能でした。

 冗長性とは情報理論の用語で、情報を伝送・記録する際、最低限必要なデータ量を実際のデータ量が、どの程度、上回るかを指します。一定の冗長性があることで、システムや設備に不測の事態があっても運用を止めることなく対応でき、影響を最小限に抑えられます。

 就職活動(採用活動)でのコミュニケーションにおいて、学生は面接などにおける直接のやり取りだけでなく、最寄り駅からの道のり、受付の対応、エレベーターで乗り合わせた社員の様子などから会社の雰囲気を知ることができます。そうした情報が「自分に合いそう」「働きやすそう」といった判断につながるのです。

 ところが、オンラインでは、基本的に画面上で相手の顔を見ながらやり取りするので、学生にとっては企業に関する情報の冗長性が減少しています。あまり認識されていませんが、これがいまの就活における意外に大きな落とし穴になっているのです。

 逆説的かもしれませんが、オンラインを活用しての情報発信は、学生のタイパ重視の特徴を踏まえつつ、むしろ、情報の冗長性を意識することが必要ではないかと、私は考えています。

 昨年(2022年)、日本の出生数は、想定より10年以上前倒しで80万人を割り込み、少子化が加速している。今後、人手不足がますます深刻になっていくことは明らかだ。中長期的に、労働市場が「売り手市場」になっていくなかで、企業側には採用活動における意識改革が求められる。

作馬 これからの採用活動において鍵を握るのはマーケティングの発想です。ところが、営業職やマーケティング部門の人なら当たり前のマーケティング発想が、なぜか、人事部門では弱いようです。

 理由として考えられるのは、これまでの採用活動は、ターゲットである学生に自らアプローチしていくというより、就職情報会社(ベンダー)のWEBサイトに自社の情報を載せたり、合同説明会に参加したりするところからスタートしていました。そのため、どのベンダーに頼むと効果が高いか、どのサービスを使うと効率的か、といった姿勢からなかなか抜け出せないのかもしれません。

 大切なのは、いまの学生が何を考え、どのように行動しているのかを知り、とりわけ、自社に興味や関心を持っていない学生にアプローチし、振り向いてもらい、自社のファンになってもらうことです。採用活動もマーケティングの発想で取り組んでいくべきなのです。