研修内容の“活用機会”を設けていくことが大切

 オンライン、対面、ハイブリッド型など、研修の手法が多様化する一方で、研修内容も、さまざまなものが増えてきているようだ。これから需要が高まりそうな研修はどのようなものか?

永田 定年延長などに伴って、「シニア社員向けの研修」が増えてきています。人手不足の時代を背景とした、改正高年齢者雇用安定法の施行で70歳までの就業機会確保が努力義務となり、シニアのモチベーションアップを課題とする企業が増えているのです。しかし、働く側は、「(役職定年などで)給料が下がったのにモチベーションが上がるわけがない」というのが本音です。そもそも、企業の、これまでの“人材への向き合い方”に問題があると私は思っています。30代までは「辞めないでほしい」という姿勢なのに、40代になって出世コースをはずれた人材には「辞めてもらっても構わない」という姿勢になる。シニア社員向けの研修を機能させるには、「一生は面倒を見切れないので、若いうちから主体的にキャリアを築いてほしい」と率直に伝えて、若手のうちからキャリア形成を支援する姿勢が必要になるでしょう。実際、こうした動きをしている企業も増えています。

 そうした状況下で永田さんが注目しているのがシニアの「ジョブクラフティング」だ。ジョブクラフティングは、「働く人の一人ひとりが主体的に仕事の捉え方や職場の人間関係に変化を加えることで、与えられた仕事をやりがいのあるものに変えること」をいう。

永田 役職定年後の1年間はワークエンゲージメントが高まらず、2年目以降に高まるというデータがあるようです。給料が下がってモチベーションはいったん下がるものの、仕事がなくなると張り合いがなくなります。給料が減ったことにしょぼくれるのは当然ですが、張り合いを求めて前向きに仕事に取り組むことで、ワークエンゲージメントは高まっていきます。ですから、「ジョブクラフティング」ができるようになる「シニア社員向けのキャリア研修」を企業が用意するとよいでしょう。シニアのモチベーションアップはなかなか難しいかもしれませんが、研修の実施を通じて、個人のキャリアと組織の成果が結びつくといいですね。

 企業の成長のためには、新人や中堅社員だけではなく、管理職やベテラン社員に対しての研修も必要だ。日々の業務が忙しい管理職やベテラン社員は、研修で時間を取られることに不満を持ちがちだが、研修を企画・運営する人事部は、彼ら彼女たちにどう向き合っていけばよいのだろう?

永田 マルカム・ノールズの「成人教育論」にある概念ですが、大人の学習は「実利的」です。学ぶ目的や仕事との関連性がないとなかなか学習しようとしません。立教大学の中原淳教授がよくおっしゃることですが、「Why do? なぜ、この研修を受けなければならないのか?」「Why us? なぜ、この研修を私(たち)が受けるのか?」「Why now? なぜ、いま、この研修を受けなければならないのか?」「Why’s merit? この研修を受けることで、どんなメリットがあるのか?」を、研修受講者に伝えることが重要です。

 受講者の周囲の方にも、研修は現場に良いインパクトを与えるもの・必要なものだと認識してもらわなくてはいけません。研修の効果は、研修前=40%、中=20%、後=40%と言われています。この数字からも、研修前後は職場の理解と協力も欠かせないことがわかります。研修を単なるイベントに終わらせず、学んだスキルを仕事に転用させるためには、受講者本人と受講者の上司がきちんとミーティングして、「これを学んだのなら、次はこういう仕事をしてみよう」というように、職場が“研修内容の活用機会を設けること”が必要でしょう。人事部の研修担当者は現場にそこまで働きかけたいですね。