人的資本、オンライン、内製化……「研修」はこれからどうあるべきか?

コロナ禍によって、企業における「研修」はオンラインの受講が一般化し、研修動画のオンデマンド視聴なども増えている。また、コロナ禍前から研修の「内製化」が進む一方で、人的資本経営やダイバーシティ&インクルージョンの推進によって、研修の内容も多岐にわたっている。ウィズコロナ、アフターコロナの時代で、企業内の研修はどうなっていくのか。部下育成研修などで講師を務めるほか、さまざまな経営者や人事部と接点を持つ永田正樹さんに、「研修」の現況とこれからの意義を「HRオンライン」で語ってもらった。(フリーライター 狩野 南、ダイヤモンド社 人材開発編集部)

オンライン研修のメリットと「研修予算」の変化

 新型コロナウイルスの感染拡大が、企業の研修スタイルに及ぼした影響は計り知れない。以前は、「研修」といえば、対面で行うのが当たり前だったが、2020年以降はオンラインにシフトせざるを得なくなった。そして、感染拡大が収まりつつある現在でも、オンラインでの研修(以下、オンライン研修)は続いており、むしろ、研修の主要なスタイルとして定着しつつある。

永田 研修をオンラインで実施するメリットはいくつかあります。人的接触を防ぐことができるのはもちろんですが、企業側からすると、交通費や宿泊費のコストがかからない点も大きいでしょう。物理的に職場を離れずに済むことは、研修の受けやすさにつながります。

 研修で学んだことを現場で実践し、実践したことを次の研修で検証する――オンラインなら、このサイクルを短い時間で繰り返し行えるため、「研修転移」を促進しやすいともいえます。

 ただ、オンラインでの研修は、対面に比べると「時間」がかかります。受講者にワークを指示してからのレスポンスなど、私の体験では、対面研修の150%くらいの時間が必要ではないか、と。講師側からすると、受講者の反応がつかみにくいという点もあります。研修は、休憩時間の雑談から人脈が広がったり、良いアイデアが生まれたりするのですが、オンラインだと、そうした人的なネットワークづくりや、ふとした気づきを得ることも難しい。また、マナーや技能訓練、ロールプレイ系の研修はオンラインには向きません。特に、新入社員研修は、同期社員どうしのリアルなつながりも大切なので、対面で行うのがよいでしょう。

 そうしたなかで、いま、多くの企業で見られるのが、オンラインと対面の両方を組み合わせた「ハイブリッド型」研修です。そのメリットは、学びと仕事が、「分断」から「往還」モデルに変わること。研修をやりっぱなしにせず、学んだ内容を現場で実践していくために、リアルで研修を行い、オンラインでフォローしていく方法です。

 オンライン研修の普及による、各企業・団体の「研修予算」の変化も気になるところだ。産労総合研究所の2022年度の実態調査によると、2021年度の1人あたりの教育研修費用(実績額)は2万9904円。前年より増加しているものの、コロナ禍以前の水準には戻っていないという結果になっている。

永田 コロナ前の教育研修費には交通費や宿泊費が含まれている可能性があるので、研修そのものの予算が減っているとは一概には言えないですね。また、交通費や宿泊費などのコストダウンができても、オンラインでは、動画コンテンツ制作などのコストがかかることも忘れてはいけません。

 今後、人的資本経営が推進されていく影響で、企業の人材への投資はますます進むでしょう。「研修費用」などの開示は、学生が就職先企業を選ぶ際の指標になるかもしれません。

人的資本、オンライン、内製化……「研修」はこれからどうあるべきか?

永田正樹 Masaki NAGATA

ダイヤモンド社HRソリューション事業室顧問
ビジネス・ブレークスルー大学大学院助教
立教大学経営学研究科リーダーシップ開発コース兼任講師

博士(経営学)、中小企業診断士、ワークショップデザイナーマスタークラス。「アカデミックな知見と現場を繋ぎ、人と組織の活性化を支援する」をコンセプトとし、研究者の知見をベースに、採用・育成・定着のスパイラルをうまく機能させるためのツールやプログラムの開発に携わる。また、企業のOJTプログラムや経験学習の浸透のためのコンサルテーションも行っている。
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