入社3年目までに経験学習の習慣をつけたい

 座学で一方的に知識を詰め込むよりも、現場で実践し、学んでいくことで人は成長する。その実践方法が「経験学習*1 」だ――仕事の経験を振り返り、内省し、学びを得ること。永田さんは、「経験学習」の研修講師を長年務め、さまざまな企業に対して、経験学習を浸透させるコンサルテーションも行っている。

*1 HRオンライン 「経験学習」とは何か?新入社員が“仕事上の直接経験”で成長する方法 参照

永田 経験学習の講師は2010年から始めました。その当時は「経験学習」という言葉を知らない人事担当者もいらっしゃいましたが、いまではかなり定着してきていると感じています。

 さまざまな企業と接しているなか、最近は、「従業員に対し、主体的なキャリア形成を求める企業」が増えたことに気づきます。これまでは、会社が命じる仕事があり、その仕事で成果を上げることが主でしたが、これからは、「なりたい自分に向けて成長していく」ことが大切になります。成長のために必要な能力を主体的に獲得する「自己起点の学習」が求められ、そこで必要となるのが「経験学習」です。「仕事で経験したことを振り返り、学びを抽出し、次の経験に生かす」という「経験学習サイクル」を回しながら、雪だるま式に成長していく――それが、社会人である「大人の成長」です。

 経験学習においては、「なりたい自分になる(なりたい自分を考える)」という主体的な姿勢が大切で、3年後の自分をターゲットに成長を目指すとよいと言われています。例えば、野球の大谷翔平選手も、目標シートを自らつくって成長を遂げたのは有名な話ですが、小さな経験学習の積み重ねが大きな経験学習となり、やがて、キャリアの構築につながります。企業においては、入社3年目までに経験学習の習慣がつくかどうかでその人の成長が変わっていくといえます。

永田 私が講師を務める研修でお伝えしている手法のひとつに「経験学習ノート」の作成があります。どんな経験をしたか、そこから学んだことは何か、次にこういう仕事がやりたい、などを新入社員に書いてもらい、そこにOJTトレーナーや上司がコメントをしていきます。この「経験学習ノート」によって、先輩や上司から常に見てもらっている・成長させてもらっているという意識が生まれ、早期離職防止につながっている事例もあります。上司と部下による「1on1」ミーティングを実施している企業も多いですが、「1on1」ミーティングも、目的は経験学習を促すことです。経験学習は、人材育成の手法のひとつというよりも、人材教育の「OS(基本ソフトウェア)」だと、私は考えています。

 経験学習は、新人や若手社員だけのものではない。「仕事の経験を振り返り、内省し、学びを得る」というサイクルがビジネスパーソンのキャリア構築をもたらしていくのだ。

永田 経験学習は、年齢を問わず、すべての社員に必要です。新人教育と並行して、新人の育成を担当するOJT担当者に、指導の経験学習をまわさせる企業もあります。このことが、OJT担当者が将来のリーダーとしての役割を果たす場合の予行練習になります。また、管理職向けの「経験学習リーダーシップ研修」というものもあります。管理職が経験学習を理解したうえで、部下に対して経験学習の方法と価値をどう教えていくか――そのポイントのひとつは、当人(部下)の実力よりも少しレベルの高い仕事を与えること。80%ではなく、110%、120%のものにすると、たとえ失敗したとしても、学びも大きくなります。失敗をとがめず、成功のための第一歩だと思えるようにすることです。もうひとつのポイントは、部下が意見を求めてきたときに自分で考えさせるようにすること。自分で考え、自分でつかんだ答えは一生忘れない宝物になるでしょう。