LINEとYahoo!――カルチャーの違いを理解し合う
永田 2019年に、御社はZホールディングスとの経営統合をスタートしました。グループ企業であるヤフー株式会社と協働するために相互理解を進めるにあたって、御社のHRBPはどのような役割を担ったのでしょうか?
大野 最初の1年は、お互いの違いを理解することに時間を割きました。その後、約2年かけてフォーカスしたのが、「違いを理解したうえで、いかにシナジーを創出していくか」という点です。具体的に何かのプログラムを回したわけではなく、「一方の声を拾って、もう一方に届ける」ということを続けてきました。実際は、3年目に入ってお互いの違いを理解するというフェーズに到達し、ようやく、次のフェーズに入ったという感じですね。私たちHRBPが両社の間に入って摩擦を和らげる役割を果たせたことは非常に重要だったと思っています。
小向 僕はもともとヤフーにいたので両社を理解しているつもりなのですが、2社のカルチャーには異なる点がいくつかあります。LINEのすごさ、ヤフーのすごさがそれぞれあります。しかも、これまではお互いを競合として見てきたわけですし、急に「分かり合え!」と言われても難しいですよね。なので、私たちが間に入って、まずは「どのような点をやりづらいと感じるのか?」というところから、言葉にしていくことを試みました。
永田 お互いの違いを理解するために、上層部が「ワークショップ」を行ったとうかがいました。具体的にはどのようなことをされたのですか?
小向 両社の役員が集まって、まずはそれぞれの歴史を一緒に振り返りました。弊社もヤフーも、上場や経営統合など、これまでもさまざまな節目がありましたから。それから、「自社についてどう思っているのか?」ということをお互いが率直に出し合いました。強みとか弱みとか、カルチャーとか、変えていきたいこととか……そういうものをすべて挙げていったのです。その次に、「相手のことをどう思っているのか?」ということを出し合いました。「正直、統合前はこう思っていました」「人に例えると、LINE(ヤフー)はこんなキャラクターでは?」など、ユニークな意見や辛辣な意見もたくさん出て、興味深かったです。最後は、「自分が相手の立場だったら、何がしたい?」ということを聞きました。「私がヤフーの社員だったら、ここをこう変えます」とか、「LINEの社員だったら、ここはこう生かしたいです」というように。それに対して、「そのためにはどうしますか?」という問いかけを行い、多くの本音が出てきました。
大野 こうしたワークショップは、非常に分かりやすい施策です。現時点では、社長から事業部長の範囲でしか行っていないので、これから中堅や若手メンバーにも広げていく予定です。
永田 これだけ大規模な、カルチャーの異なる個性的な企業が手を取り合う貴重な機会に立ち会われて、大野さん小向さんはHRBPとして、どのような思いを抱いていらっしゃいますか?
大野 とても面白い局面ですよね。HRBPとしてもチャンスですし、腕の見せどころだと思っています。新しい組織ができる、マネージャーが変わる――そうしたタイミングで、HRBPのバリューをしっかり発揮できるはずですから。HRBPのメンバーには、「これは、なかなかできない経験。大きなチャンスだから、みんなが楽しんで!」と話しています。もちろん、楽しい話ばかりではないし、痛みを伴うこともあるでしょう。でも、私は大きな意気込みを感じています。
小向 これから本格的な組織統合のフェーズに入るので、具体的なチームビルディングや一体感の醸成など、事業成長に伴う組織のあり方をデザインしていくことになります。HRBPの役割も大きく変わっていくでしょう。先ほどお話ししたワークショップも、全社員規模でやるとしたら私たちだけでは到底できませんし、ここから先は、仕事の発想の方法なども、意識的に変えていかなければならないと思っています。
大野 そもそも、弊社とヤフーさんではHRBPのあり方も違います。両社のHRBPを融合させていくことも大きなチャレンジだと思います。どんな役割を担って、どんなバリューを発揮していけるのか、そのためにどんなストラクチャーが必要か、そうしたことを熟考していくことになります。大変だけれど、楽しみですね。
聞き手●永田正樹 Masaki Nagata
ダイヤモンド社HRソリューション事業室顧問
ビジネス・ブレークスルー大学大学院助教
立教大学大学院経営学研究科リーダーシップ開発コース兼任講師
博士(経営学)、中小企業診断士、ワークショップデザイナーマスタークラス。「アカデミックな知見と現場を繋ぎ、人と組織の活性化を支援する」をコンセプトとし、研究者の知見をベースに、採用・育成・定着のスパイラルをうまく機能させるためのツールやプログラムの開発に携わる。また、企業のOJTプログラムや経験学習の浸透のためのコンサルテーションも行っている。