「年1冊しか本を読めない私が、一冊の本で価値観や生き方が思いっきり変わった」。そう語るのは起業家の宮田昇始氏だ。労務管理クラウドSmartHRを創業し、最近では企業のストックオプションをサポートする新会社Nstockでも注目されている。そんな彼の人生を変えた一冊が『DIE WITH ZERO 人生が豊かになりすぎる究極のルール』という自己啓発書だ。「ゼロで死ね」というメッセージを通して、お金や時間の使い方に切り込んだベストセラー本である。この本が、宮田氏の人生にどう影響を与えたのか、直接お話をお聞きした。(取材・構成/畑下裕貴)
本当に大切なのは「思い出づくり」。一冊の本が教えてくれたこと
――本日は、お時間をいただきありがとうございます。宜しくお願いいたします。
宮田昇始(以下宮田) 宜しくお願いいたします。
Nstock株式会社の代表取締役CEO 兼 株式会社SmartHRの取締役ファウンダー。
2013年に株式会社KUFU(現SmartHR)を創業。2015年に人事労務クラウド「SmartHR」を公開。2021年にはシリーズDラウンドで海外投資家などから156億円を調達、ユニコーン企業の仲間入りを果たした。2022年1月にSmartHRの代表取締役CEOを退任、以降は取締役ファウンダーとして新規事業を担当する。2022年1月にNstock株式会社(SmartHR 100%子会社)を設立。
――宮田さんが『DIE WITH ZERO』という本を激賞しているツイートを拝見しました。この本を読まれたきっかけを教えていただけますか?
宮田 メルカリの山田さんに紹介されたことがきっかけですね。当時、仕事のことで少し悩んでいたので相談した際に、「今の宮田さんに勧めていいかわからないけど、ぜひこの本を読んでみて」と言われて。
――実際に読まれてみてどうでしたか?
宮田 僕は年1冊くらいしか本を読めないので、きっと読めないだろうなと思ったんです(笑)。でも、せっかくオススメいただいたので読んでみたら、とてつもなく衝撃を受けました。今では自分の価値観や生き方に思いっきり影響を与えています。
――具体的に、どう変わられましたか?
宮田 たとえば、本書の中に「人生の目的は思い出づくり」という言葉が出てきます。今までも、なんとなくそれを感じながら行動はしていたんです。学生時代にはバックパッカーで海外を旅しましたし、起業もその一つだと思います。ただ、それはあくまで意図的にやっていたものではありません。今では、意図的に思い出をつくる行動を増やしています。
思い出は、死ぬまで「配当」をもたらしてくれる
――本書には「思い出の配当」という言葉も出てきますね。
宮田 それも新しい概念だと思いました。「思い出は、得たその瞬間だけがハッピーじゃない、死ぬまで配当を与え続けてくれる」という考え方に、たしかにそうだなと思いました。SmartHRの創業時にもいろいろな経験をしましたが、それも死ぬまで絶対に忘れないと思いますし、そこで共に戦った仲間たちともずっとその経験を語り合える。そうした経験を積み重ねることが人生では大切なのだと改めて気づかされました。
あと、この本の冒頭に「あなたは喜びを先送りしすぎている」という言葉があります。それもドキッとしたというか。それからは、死ぬまでにきっといつかやるだろう、と思っていたことをいくつか始めました。最近だと、ダイビングのライセンスを取りに行きましたし、ずっと避けてきたゴルフを始めたりもしています。
――それだけ人生を変えてくれる本ってなかなか出合わないですよね。
宮田 本当にそう思います。2022年にNstockという会社を立ち上げたのですが、それも『DIE WITH ZERO』の影響を大きく受けていますね。SmartHRが軌道に乗ったので、いつか次の会社を立ち上げられたら、と思っていたのですが、「いつか」ではなく「今」やったほうがいいと思えたんです。
「DIE WITH ZERO」が会社の共通言語に
――Nstockでは、会社として『DIE WITH ZERO』の考え方を取り入れているとうかがいました。
宮田 そうですね。この本のサブタイトルに「人生が豊かになりすぎる」とありますが、一緒に働くメンバーの人生も豊かになるように応援するような、そんな社風にしたいと思っています。
たとえば、ちゃんとした理由での有休自体は取りやすい世の中になりましたが、上司や一緒に働く仲間に「フィンランドにサウナに行きたいので休みます!」「会社を休んで、子どもと離島に1週間キャンプに行ってきます!」とは 堂々と言いづらいこともありますよね 。それをストレスなく堂々と言えて「すごくいいね!」とリアクションがもらえる社風にしたいんです。実際、社内のチャットでは、「DIE WITH ZERO」という絵文字がつくられていて、そうした行動をしている人に対して、「それDIE WITHZEROだね」のように、共通言語として浸透してきています。
――絵文字まであるとは、すごいですね(笑)
宮田 そうなんです(笑)。仕事はもちろんですが、プライベート、そして人生が豊かになる会社にしていきたいと思っています。
――ありがとうございます。最後に、宮田さんはこの本をどんな方に読んでいただきたいですか?
宮田 そうですね。私もそうでしたが、「喜びを先送りしている人」「なにかと理由をつけて我慢しちゃっている人」に読んでいただきたいです。お金を貯めることはもちろん大切です。でも、時には借金をしてでも、経験や思い出づくりに投資する。特に若い人ほど、それが大切だと思います。
あと、子育てをしている方にも読んでいただきたいですね。私も子どもがいますが、この本では「子どもには、子どもが若いうちに相続しろ」「いつまでも子ども用プールで遊べると思うな」など、子育て世代にとっても示唆に富む内容が多いと思います。
――たしかに、子どもとの人生についてもハッとさせられる言葉が多いですよね。宮田さん、本日はありがとうございました。
宮田 こちらこそ、ありがとうございました。