非財務価値を財務価値につなげるストーリーこそが大切

 好意的な日本国内のマスコミ報道とは異なり、一部の海外投資家からは、日本企業のESGに対する積極的な取り組みに対して、強烈な批判がなされています。それは、日本企業の低収益性と絡めての批判です。

「綺麗ごとはもう十分だ。聞き飽きた」「IR面談で、ESGでいろいろよいことをやっている、という話をしたがる日本の経営者が多いが、そんな話はどうでもよい。利益という結果をいつ出してくれるかを説明すべきだ」「統計分析をしている暇があったら、どうやったら今の低い収益性から脱出できるのか、真剣に考えろ」と言う海外のファンドマネージャーもいます。

 今日、人的資本を含むさまざまな非財務情報の開示が奨励されていますが、企業による非財務情報の開示の最終的な目的は企業価値の向上であり、開示自体が自己目的化することは避けなければなりません。

 同時に、PBRが低い日本企業は、自社の株価が過小評価されていると考えるならば、正当な評価を得るためにさまざまな努力をする必要があります。

 人的資本への投資を含む非財務価値増大への取り組みが、将来の財務的成長や企業の収益力確保にどのようにつながっているのか、あるいはつなげようとしているのか、このストーリーこそが重要だと私は考えています。

 そのことを経営者として投資家や従業員などのステークホルダーに熱量を持って語り、結果を出していくことで非財務価値と財務価値の因果関係を実証していく。私自身を含む日本企業の経営者にとって、重い課題のひとつです。

参考文献
*1 「エーザイの「人財計算式」人の価値を見える化する」日本経済新聞電子版、2022年2月9日
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOCD063VU0W2A200C2000000/
*2 2021年3月期決算、KDDI、2021年5月14日
https://www.kddi.com/extlib/files/corporate/ir/library/presentation/2021/pdf/kddi_210514_main_Yhr9KA.pdf
*3 「サステナブルな成長へ向けた強固な財務・非財務基盤の構築」、NEC、2021年12月10日
https://jpn.nec.com/ir/pdf/library/211210/211210_01.pdf
*4 VALUE REPORT 2021、日清食品ホールディングス、2022年2月2日
https://www.nissin.com/jp/ir/library/annual/pdf/ir_2103_01.pdf
*5 JR東日本グループレポート 2022、東日本旅客鉄道、2022年8月
https://www.jreast.co.jp/eco/pdf/pdf_2022/all.pdf

※この記事は、書籍『CFO思考』の一部を抜粋・編集して公開しています。