毎年平均100名近い海外機関投資家と面談しているニコン現CFOの徳成旨亮氏によると、海外機関投資家との面談で、頻繁に「君たち(日本経済・日本企業・日本人)には『アニマルスピリッツ』はないのか?」と問い質されてきた、という。
海外投資家は、日本の社会や企業経営を、血気が衰え、数値的期待値を最重視しリスクに怯えている状態にあると見ている。結果、日経平均は1989年の最高値を未だ更新できておらず、水準を切り上げ続けている欧米株と比べて魅力がないと言われても仕方がない状況だ。
この現状を打破するにはどうしたらいいか? 徳成氏は、「CFO思考」が「鍵」になるという
朝倉祐介氏(アニマルスピリッツ代表パートナー)や堀内勉氏(元森ビルCFO)が絶賛する6/7発売の新刊『CFO思考』では、日本経済・日本企業・日本人が「血気と活力」を取り戻し、着実に成長への道に回帰する秘策が述べられている。本書から、一部を特別に公開する。

バブル期の日本経営者が恐れられていた意外すぎる理由とはPhoto: Adobe Stock

「日本の経営者は怖い。
なぜなら『資本コスト』の概念がないからだ」

「草食系」の投資家に対応する日本企業の経営陣は、欧米の経営者が当たり前に持つ資本市場に関する基本的知識に欠けるきらいがありました

 たとえば、機関投資家が投資を行う場合の期待リターンである「資本コスト」の概念もそのひとつです。株式に投資する株主は、企業経営の最終的なリスクを引き受けています。仮に、企業が倒産するとすべての債権者に弁済した残り(残余財産)の範囲でしか支払いを受けることができません。そうしたリスクを引き受ける以上、通常の安全資産、たとえば、国債や銀行預金から得られる利息やリターンよりも高い利回りを期待します。

 この投資家が株式投資から期待するリターンを、企業サイドから見た呼び名が「資本コスト(正確には『株主資本コスト』)」です。つまり、投資家から資本を預かる企業からすれば、その水準をクリアしなければ投資してもらえない利回り、集めた資本に対して与える見返りの水準が「資本コスト」です。

 経済産業省がまとめた通称「伊藤レポート」で有名な一橋大学の伊藤邦雄先生は、米国のシリコンバレーにあるスタンフォード大学で研究員を務めておられた1980年代後半に、経済紙『ウォール・ストリート・ジャーナル』で次のような記事を目にされたと語っておられます。

「日本企業の経営者は怖い。なぜなら、『資本コスト』の意識がないからだ[*1]」

 1980年代後半と言えば、日本経済はバブル絶頂の頃にあたり、日本企業が米国で大型買収を行っていた時代です。

 たとえば、ソニー(現ソニーグループ)がコロンビア・ピクチャーズを、松下電器産業(現パナソニック・ホールディングス)がMCA(現ユニバーサル・ピクチャーズ)を、三菱地所がロックフェラーセンターを次々に買収していきました。日本国内では、日本経済が米国経済を今にも凌駕し、日本企業が米国企業を従える時代が来るかのような論評が盛んでした。

 しかし、伊藤先生が現地で目にされた経済紙によれば、日本企業の経営戦略が尊敬されていたわけではなく、「株式会社」の基本であるはずの資本にコストがかかる、という認識がなく、法外な価格で買収を仕掛けてくる無知ゆえの怖さが、日本企業に対する評価だった、というわけです。