相関関係があっても因果関係があるとは限らない
日本企業のESGに対する取り組みや非財務情報の積極的な開示について、日本のマスコミなどでは、「海外投資家が求めていること」であり「好意的に受け止められている」と報道されていますが、一方で「柳モデル」に限らず、日本企業のESGに対する取り組みには、一部海外投資家から厳しい目が向けられていることも事実です。
まず、「柳モデル」については、「あれは相関関係を示唆しているだけで、因果関係ではない」という指摘がいちばん多く聞かれます。
たしかに、教育・研修費用や女性管理職比率といった非財務KPIとPBRとのあいだに統計的に有意な相関があったとしても、それは必ずしも因果関係を意味しないことは、柳氏も認識しておられます。
ここで、相関関係と因果関係について整理しておきましょう。「気温が上がるとアイスクリームの売上が増える」という統計データがあったとします。つまり、気温とアイスクリームの売上のあいだには統計上の正の相関関係があります。この背景には、気温が上がることで冷たいものを食べたくなる人が増え、その結果、アイスクリームの売上が増えた、という論拠から、相関関係だけでなく因果関係もあると言えます。このように、相関関係と因果関係の両方が成立する場合、必ず原因が先で、結果が後の順序で起こります。
有名な例ですが、海におけるサメによる襲撃事件数とアイスクリームの売上のあいだには非常に強い正の相関があることが知られています。どちらかが原因、すなわち、「サメが人を襲うことを原因として、アイスが売れる」あるいは「アイスが売れることに起因して、サメが人を襲うようになる」と言えるでしょうか?
このように、相関関係が観測されても因果関係があるのかは別問題です。「因果関係があれば、相関関係がある」と言えますが、「相関関係があっても因果関係はない場合がある」のです。