今なら目指せる! 医学部&医者#4Illustration by Yukiko Kikutani

日本医師会では会長の座を巡って“クーデター”が繰り返されている。長期政権を築いた横倉義武氏(現名誉会長)の5期目当選を阻んだのが、横倉氏の「右腕」といわれた中川俊男氏。会長になった中川氏に反旗を翻したのが、中川氏が最も信頼を寄せた松本吉郎氏だ。2022年にトップに立った松本氏は、役員の大幅増員を打ち出した。日医に何が起こっているのか。特集『今なら目指せる! 医学部&医者』(全24回)の#4では、日医の内情に迫る。(医薬経済社 市川知幸)

「週刊ダイヤモンド」2023年6月3日号の第1特集を基に再編集。肩書や数値など情報は雑誌掲載時のもの。

常任理事を4人増員へ
定数増は33年ぶり

 日本医師会会長の松本吉郎が2022年10月、日本記者クラブでの記者会見後に書き記した座右の銘は、「以心伝心」だった。その上で、こう解説してみせた。

「これができていると思わないから書いた。本当は『拈華微笑』と書きたかった」。拈華微笑は仏教用語で「言葉を用いずに心から心へと伝える妙境の例え」だ。その考えは松本の政治に対する姿勢にも通ずる。

「普段からのコミュニケーションが非常に大事。政府・与党とはしっかりと協調して、連携を取りながら進んでいきたい」と言う。

 日医会長の座を巡っては“クーデター”が繰り返されている。安倍晋三政権と共に歩み、4期8年という長期政権を築いた横倉義武(現名誉会長)。その5期目当選を阻んだのが、横倉の「右腕」といわれた副会長の中川俊男だった。

 中川は20年6月の会長就任から、政府には「是々非々で臨む」と宣言。強硬路線を打ち出したものの、「独断専行」が目立ち失速。医療政策の停滞や執行部内の風通しの悪さなどを理由に中川に反旗を翻したのが、中川が最も信頼を寄せる筆頭常任理事の松本だった。

 日医会長は全国の代議員376人の投票で決まる。松本が出馬の意向を固めると、全国的な「中川離れ」が雪崩を打つ。東京、大阪、愛知という大票田の都府県医師会長が「松本支持」で結束すると、中川はついに出馬断念に追い込まれた。中川の会長2期目に、松本には副会長の椅子が用意されていたのだが、それを蹴って中川を1期2年で退場させた格好だ。

 副会長を経ずに、常任理事から“飛び級”で会長の座を射止めた松本のスタンスは、師と仰ぐ横倉に非常に近い。時の政権と対峙するというより、良好な関係を築くことを目指している。

 横倉は安倍との蜜月をてこに、会長として8年間も君臨した。政権ナンバー2だった麻生太郎とも近く、診療報酬の改定率など重要な政策決定時には「直談判」が可能な関係性を保った。

 松本はどうか。首相の岸田文雄と松本の間に「安倍─横倉」のようなホットラインは存在しない。そんな松本が22年6月の就任以来、力を注いでいるのが「組織力強化」である。その柱が、現在10人いる常任理事の「4人増員」だ。

 日医の常勤役員の定数増は1990年以来33年ぶり。当時、副会長を2人から3人に、常任理事を8人から10人に増員した。その体制が平成を経て、令和まで続いてきた。松本は定款変更など必要な手続きを済ませ、横倉ですら成し得なかった“改革”を結実させた。6月25日の代議員会で常任理事選挙が行われ、4人追加される見通しとなっている。

 主要幹部の顔触れは次ページ表(日本医師会主要幹部8人の人物寸評)の通り。ここに増員する目的は何か。