個人のパフォーマンスを高める“ストレッチゾーン”

 第3に、教え上手のマネジャーは、挑戦的な仕事を部下に付与しようとする。ストレスレベルとパフォーマンスの関係に着目したものに、「ヤーキーズ・ドットソンの法則」がある。これは心理学者のロバート・ヤーキーズとJ.D.ドットソンが発見した法則であり、極度の高ストレス下(パニックゾーン)や極度の低ストレス(コンフォートゾーン)にある場合には、適度なストレス下(ストレッチゾーン)にある場合に比べて、記憶や知覚の正確さが劣るというものである。この法則に基づけば、人は自分が背伸びすればできそうな仕事が付与される“ストレッチゾーン”において、最もパフォーマンスが高まり、自分がすでに簡単にできる仕事を与えられる“コンフォートゾーン”では、退屈になり、パフォーマンスが低下する。逆に、自分の実力では到底できそうもない、“パニックゾーン”になっても、人は心身ともに疲労し、パフォーマンスが低下するのである。

 教え上手のマネジャーは、部下をよく観察し、部下が仕事に慣れてコンフォートゾーンに入りそうになると、すかさずストレッチゾーンの仕事をアサインするように心がけている。また、パニックゾーンについては、まれに爆発的に成長する人材は存在するものの、一般的には部下のウェルビーイングの観点から、仕事を調整しようとする。経験学習の観点から考えると、すでにできる仕事でいくらリフレクションしても、そこからの学びは少ない。一方、自分の現在の実力では成果を出しにくい仕事を付与されれば、そこには失敗もあるかもしれないが、試行錯誤しながら仕事を進めることになるだろう。その際にリフレクションが機能し、新しいマイセオリーを生み出すことにつながるのである。