部下のリフレクションを促すための4つのステップ

 第4に、教え上手のマネジャーは、純粋に「鏡」となって部下を映し出すよう努力している。柔道の選手は自分が技をかけている姿を録画し、同じ技の世界的名手の体の動きと比較することにより、リフレクションし、上達するという。このビデオの役割を教え上手のマネジャーは果たそうとするのだ。

 そのためにマネジャーは、以下のステップで部下のリフレクションを促そうとする。

事実の確認 部下の言うことをひととおり聴き、部下が見ている地図を確認することである。ある出来事について、部下が見えている状況とマネジャーが見えている状況は違う可能性がある。マネジャーが見えている状況を一方的に伝えて、何かをフィードバックしても部下には刺さらない。まずは、部下の見ている地図と自分が見ている地図を合わせることが、リフレクション支援の一歩目となる。そのために、マネジャーは、いつ、誰と、どのようなことをしたのか、その影響とその際の感情を含めて確認するのだ。

自分ごと化支援 マネジャーは、すぐに答えを与えずに部下に自分の頭で考えさせる。目指すべきゴールはもちろん伝えるが、ゴールに至るプロセスは自分で考えさせる。山の登り方はいくつもあるので、同じ山を登るのでも、本人がどういったルートを取りたいのかを決めさせるのだ。人気のサッカー漫画『アオアシ』の中で、無限の可能性を持つ主人公の青井葦人を指導する、ユースチームの福田監督は、答えを求める葦人に簡単に答えを与えない。「なぜ、教えてやらないのか?」と聞くコーチの問いに、福田監督は「自分で掴んだ答えなら一生忘れない」とつぶやく。教え上手のマネジャーは、部下に自分でとことん考えさせることが、仕事の自分ごと化につながり、迷いながらも主体的に仕事に取り組み、その経験をリフレクションすることが部下の成長につながると考えているのだ。

教訓化支援 部下に、仕事経験から得た、仕事をうまく回すためのコツの言語化を促すことである。例えば、何かうまくいった仕事があったときは、褒めた上で、なぜうまくいったのかを聞き、成功要因を本人の言葉で語らせる。全日本水泳コーチの平井伯昌氏も、選手の調子が良くて記録が上がったときに、「どうして良かったのか」考えさせるという。成功の型を頭に刻み込んでおくと、スランプに陥ったときに、すぐに立ち直れると平井氏は述べている*5  。

*5 平井伯昌著『見抜く力 夢を叶えるコーチング』幻冬舎新書より

挑戦支援 マネジャーは言語化された部下のマイセオリーを、次の仕事で生かせるように支援する。例えば、部下が素晴らしい成果を上げても、「このマイセオリーを次に生かせば、さらに良くなるから、次はこれを目指そう」と、挑戦と新たな目標の設定を促すのである。

 これらのステップをマネジャーが支援する際は、おそらく、マネジリアル・コーチングのスキルが役に立つ。オックスフォード・ブルックス大学のエレーヌ・コックスは、「コーチングは、経験学習における経験、リフレクション、教訓化を統合し、機能させるための弁証法的プロセスと見なすことができる」と述べている。その意味で、マネジリアル・コーチングの一形態と見なせる「1on1ミーティング」を部下のリフレクションを促すために活用することも有用であろう。マネジリアル・コーチングにおけるコーチング行動として、ピーター・へスリンの示した「具体的指導」「ファシリテーション」「鼓舞」がある。「具体的指導」とは、部下に期待する成果のレベルを伝えたり、業績を改善するために建設的なフィードバックやアドバイスを提供したりすることである。「ファシリテーション」とは、部下のアイデアを引き出す役割を果たしたり、問題を解決するために創造的に考えることを支援したりすることを指す。また、「鼓舞」とは、部下の成長への期待を伝えたり、継続的に成長できるように励まし、新しい挑戦を支援したりすることを意味している。このうち、「部下のアイデアを引き出す役割をしている」「問題を解決するために創造的に考えることを支援している」「新しい可能性や解決策を追求することを促している」という行動である「ファシリテーション」は、部下のリフレクションを促すためのコーチング行動といえるだろう。

 ただし、「1on1ミーティング」を安易に導入することは注意する必要がある。このあたりは、次稿、「人事担当者による“リフレクション”支援を考える」で考察していきたい。