人事部門だけでは“現場の仕事”を把握できない
伊藤さんがあらゆる企業と接触するなかで、現場の声としてよく挙がる悩みが「人材ポートフォリオ」をどう作成するか、だという。「人材版伊藤レポート」で挙げられた「3つの視点と5つの共通要素(*4) 」のなかで、人材ポートフォリオは重要な位置づけになっているが……。
*4 《3つの視点(Perspectives)》 1.経営戦略と人材戦略の連動 2.As is-To beギャップの定量把握 3.企業文化への定着 《5つの共通要素(Factors)》 1.動的な人材ポートフォリオ 2.知・経験のダイバーシティ&インクルージョン 3.リスキル・学び直し 4.従業員エンゲージメント 5.時間や場所にとらわれない働き方
伊藤 タレントマネジメントの文脈にも通じますが、「人材ポートフォリオ」を作成するには自社に必要な仕事とスキルの定義が必要です。
ところが、これまで多くの会社において、「人材ポートフォリオ」は、「次期の組織体制と人員配置をどうするか、誰をどのように昇格させるか」といった要員計画に集約されていました。
本来、「人材ポートフォリオ」の目的は、5年後10年後を見据えた人材の確保と育成であり、ジョブ型雇用も連動してきます。そうした観点から人材の育成計画を立てようということで、各社は「人材ポートフォリオ」の作成にチャレンジしているはずです。
ただ、現在の仕事の定義もそうですし、今後必要となる仕事やそこで求められるスキルを明確化するのは簡単なことではありません。簡単でない理由は人事部門だけでは現場の仕事がよく分からないからです。「人」と付く課題や業務はすべて人事部門任せという傾向がありますが、「人材ポートフォリオ」の作成は会社全体で取り組まないと絵に描いた餅になりかねません。むしろ、現場主体で考えたほうがよいと思います。現場の各事業部門が自分たちの事業の5年後10年後を見据え、事業をどう継続させるかを考えたうえで、人事部門がサポートするかたちが理想の姿です。そのためには、トップダウンのかたちでCHRO(最高人事責任者)がリードする方法もあるでしょう。いずれにしろ、現場を巻き込んだ取り組みを行わないと「人材ポートフォリオ」の作成は難しいと思います。