少年への追及によって、スシロー自身が窮地に陥る

 まず、(1)「スシロー低迷は迷惑動画だけが原因か」という議論が盛り上がってしまうという点だ。実は少年がしょうゆ差しを舐める前から、スシローは顧客の信用を失って客足が落ち込んでいた。昨年6月の「おとり広告」騒動以降、不祥事がたて続けに起きたからだ。同社の2022年第3四半期決算説明資料(22年8月)にはこんな説明がある。

「景品表示法に係る措置命令を受け、お客様の信頼を失う事案を発生させてしまった事により客数が減少し、売上が想定を大幅に下回る結果となった。」

 そんなダウントレンドの中で、「ペロペロ事件」が起きた。スシロー側の主張では今も客足が落ちているのは、「少年のせい」ということだが、これもやや苦しい。

 例えば、丸亀製麺は今年5月に新製品「シェイクうどん」に生きたカエルが混入するというショッキングな画像がネットやSNSを駆け巡って、マスコミも大きく報じた。スシローのロジックでは、丸亀製麺の客足は「拡散」によって大幅減少になるはずだろう。しかし6月の既存店客数は前年同月比100.2%で、売上高も同108.2%となっている。しかもネガイメージがついたはずの「シェイクうどん」は騒動があったにもかかわらず、7月末までの約2カ月半で販売累計数250万食を達成している。

 つまり、1人の少年がしょうゆ差しを舐めたということだけでスシロー全店が大打撃というのは、感情的には共感・同情できる話だが、科学的でもなければ論理的でもないのだ。

 裁判をやって少年側と「スシロー低迷の原因」について争えば争うほど、こういう主張の粗が目立つ。それをマスコミが報じれば、スシローが迷惑行為を業績低迷のスケープゴートにしているのでは、という憶測が流れてしまう恐れもある。

 しかも、(2)で指摘しているように、この裁判を勝ってそれなりの損害賠償を得たところで、スシローの客足が増えるわけでもないのだ。

 もちろん、厳しい姿勢で臨むのは、株主対策としても当然だ。だから、この手のバカッター(Twitterに自らの迷惑行為や反社会的行為を載せるユーザー)やバイトテロの問題が起きると、「法的措置を検討します」というリリースを出す。筆者もそういう発信の手伝いをした経験は何度もある。

 だが、一般の方はあまりご存じないだろうが、実は「法的措置をチラつかせること」はあくまで株主を納得させる「IR的な情報発信」であって、実際に損害賠償請求にまで踏み切らない会社も多い。提訴したとしても、あくまで株主対策なので今回のスシローのようにしれっと取り下げる。

 理由は各社いろいろだが、危機管理的には、法廷闘争になると企業にとっていろいろ不都合な話がたくさん語られてしまい、結果、「やらない方がよかった」となる可能性が高い。