組織のメンバーが、話し合い、意見交換する価値

 多くの研修やワークショップを通じて、「ナナメウエ」の発想や視点の大切さを伝えている八住さんだが、「ナナメウエの発想や視点はあくまでもプラスアルファ」だと説明する。

八住 ゼロの状態からナナメウエの視点を持つのではなく、いまある仕事や日常にナナメウエの視点を付け足すイメージです。アイデア創発の話にも通じますが、日常にナナメウエの視点を少しだけプラスすると、新しいアウトプットができ、それが多様性を生んでいくのです。多様な視点や思考を持つ人が集まれば、組織も成長していきます。忘れてはいけないのは、組織のメンバーが「同じ景色を見る」ことです。私は、例えば、「北極星」という言葉で表現するのですが、「同じ景色を見る」ことの重要さに気づいていない企業・組織が多いと感じています。

 高度成長期のように結果の予測できる時代と違い、いまは不安定で不確実な時代です。コロナのような予測できない事態も起こり、未来について誰も明確な答えを持っていません。だからこそ、北極星、つまり、目的をはっきりさせるべきです。もちろん、不確実な世の中では、目標をさだめてまっすぐ進んでいこうとしても、違う地点に行ってしまうこともあります。それを軌道修正するためにリフレクションは有効。横道に逸れているように見えても、寄り道しても、北極星の位置が分かっていれば、大丈夫です。

 企業における研修でも、受講者と、送り出した部門の上司が同じ景色を見ていることが必要です。「○○○○の目的で研修を受けてきてほしい」と上司が部下を送り出せば、受講者である部下はそれに基づいて上司への報告ができますし、業務の中でも研修で学んだことを生かしやすくなります。

 人材育成においては、上司と研修の受講者である部下にとどまらず、企業の経営層や人事担当者も、それぞれの部門と「同じ景色」を共有することが必要だろう。そのために必要なことは何だろうか?

八住 シンプルですが、「話し合うこと・意見交換すること」です。「離職者が多い」という課題だったら、現場の管理職が状況を正しく把握して、経営層や人事部に、その「景色(現在の様子)」を説明すること。みんなの見ている景色がバラバラだと、何かの手を打とうにも打てません。心地よく密なコミュニケーションこそが大切で、抽象的な「企業理念の共有」だけでは事足りません。

 また、心地よく密なコミュニケーションをつくっていくためには、社内の「風土」を変える必要もあるでしょう。仕事のプロセスには、目に見えるものと目に見えないものがあります。個人の思いや価値観はなかなか目に見えませんが、みんながしっかりと話し合える風土があれば、見えないことも見えてきます。

「組織のメンバーが同じ景色を見ていても、思うように進めないこともある。どうせ寄り道をしながら進んでいくのならば、面白がるほうがよい」と、八住さんはメッセージする。

八住 「面白がる」というのは、私が自分の仕事をするうえで大切にしていることです。仕事に対して面白がるのは結構難しいですが、日常生活で面白がることを意識していると、そこで見つけたキーワードが仕事につながったり、コミュニケーションのきっかけになったりします。いろいろなことに興味を持っていれば、人との縁も生まれます。私が研修講師の仕事をしているのも、たくさんの人に出会ってきたことがきっかけです。そして、そのさなかでいろいろなことを面白がってきた結果が、現在につながっています。