なぜ行政は近視眼的になってしまうのか
「単年度予算の原則」が全ての元凶

 小野さんは、「一番の問題は、近視眼的な行政のあり方だ」と言う。「単年度予算の原則」といって、国や自治体は一会計年度の予算をその年度内に執行・完結することを原則としている。財政の健全性確保の観点から望ましいとされているのだが、中長期的な戦略がないまま単年度予算で部分最適を繰り返せば、いつか必ずガタが来る。

「クラウドはその最たるものです。向こう10年で見ればオンプレより安くなるはずなのに、初年度だけだとイニシャルコストが高く見える。だから、オンプレのままでいいじゃないかとなるんです。そもそもオンプレサーバーを維持するのだって毎年高い費用がかかり、数年ごとに数千万の更新費がかかります。なぜそうまでして古いシステムを使い続けるのか、単年度で見ていると疑問すら持たなくなるのです」(小野さん)

 また、戦略なきシステム導入は後が怖い。それを象徴する出来事があった。「なぜ磐梯町はマイナンバーカードを使った証明書のコンビニ交付をしないのか、DXなんて嘘っぱちじゃないか」と指摘が入ったのだ。できないわけではない。しかし、一通発行するごとに数万円のコストがかかる。それは正しいお金の掛け方なのか。他の自治体の成功例に踊らされ、自分たちの状況を見失っては誰も幸せにならない。

「そもそも行政手続きのオンライン化は、マイナポータルをしっかり実装してもらえれば叶うこと。ガバメントクラウドもそうです。国が基盤を作り、自治体がAPIなどで連携して手続きを進められるようになれば、国と自治体のシステムの二重化も防げます」(小野さん)

 一方、いま全国の地方自治体で、デジタル田園都市国家構想交付金(デジ田交付金)を使った独自のシステム開発が増えているという。デジ田交付金は、岸田内閣が掲げる「新しい資本主義」の実現に向けた成長戦略の一つで、国が毎年予算を確保し、地方のデジタル化を後押しするものだ。

 磐梯町は、デジ田交付金を一切使っていない。その理由を佐藤さんはこう語る。

「もちろん申請はできますが、単年度予算の原則に縛られ、申請・報告書類の作成など職員の手間も増えることになります。それが今後の磐梯町のためになるかというと、現状ではならないと判断しました」

「旅する公務員」の目的は?
本質を知るためには、視察以上の旅が必要

 それは本当に磐梯町のためになるのか――筆者すらもう忘れかけていたが、今回の本題「旅する公務員」実証事業の目的もここにある。

「新規事業を始める前には先進地を視察します。それで良いところをまねるのはいいのですが、カッコいいところだけを見て、それがどんな価値や課題を生み出すのかまで見抜けないことが多い。にもかかわらず、単年度予算の原則に則って進めてしまうのが、行政の一番悪いところです」(小野さん)

 本質を知るには、視察以上の旅が必要だ。行く先々の自治体に深く入り込み、住民の声も聞かなければ、真実は見えてこない。後編では、磐梯町のDXにおける3年の成果と、「旅する公務員」実証事業について深掘りする。