意見がぶつかり合う父に引退を迫る
さあ、それを元にして具体的な施策に取り組んでいこうと意気込んでいた私でしたが、その前に解決しなければならない大きな問題が二つありました。一つは、会長となっていた父と社長である私という“ダブルスタンダード”の問題です。
父と私とでは、経営に対する考え方が全く異なり、ことごとく意見が対立していました。私が口にする「顧客の笑顔を創る」といったことに、父は全く興味がありません。会社の経営理念も、社員を一つにまとめることも、必要性を感じていなかったと思います。
そんなこともあり、役員会議では対立することが多くなりました。例えば、社員が仕事で使用する携帯電話は、会社から貸与するか、それとも社員のものを借り上げる方式にするかといった小さなテーマでも私と父の意見がぶつかり合い、会議が行き詰まってしまいました。これでは、いつまでたっても父のワンマン経営が続き、私が考える経営ができません。
そこで私は、父に経営から身を引いてもらおうと、二人だけの打ち合わせの席でこう切り出しました。「今は指揮系統が二つに分かれてしまって、役員も社員も困っている。会社は絶対につぶさないから、私に全権を譲ってください」
すると父は、一瞬こわばった表情を見せたものの、「分かった、そうしよう。もう役員会議にも出ない」と、意外とあっさりと私の頼みを受け入れてくれました。おそらく父も、今の状況はまずいと感じており、いつ引退するかを考えていたところに私の提案があって、いい機会だと思ったのではないでしょうか。