腕組みをするビジネスパーソン写真はイメージです Photo:PIXTA

現在、日本では多くの中小企業が事業承継で大きな課題を抱えていることに加え、2代目、3代目の若手跡継ぎが、いかに先代の“負の遺産”を変革し、新たな成長軌道を作り直していくかが、企業経営の中で注目されている。富山県にある段ボール会社を継いだ3代目社長が、先代までの旧態依然としたワンマン経営に改革を起こし、いかにして売上高を倍増させたかを解説する。(サクラパックス代表取締役社長 橋本 淳)

絶望的な状況の中で始まった、新社長としての道のり

 富山県富山市にある段ボール会社のサクラパックスの社長だった父が会長に退き、私が社長を継いだのは2008年のこと。とはいえ、その頃の私は日本青年会議所の役員の仕事で忙しく、実質的に社長のイスに座ったのは、その4年後の12年でした。

 ところが、いざ社長の座に就いて会社の現状を目の当たりにした時、私は絶望感に襲われました。段ボールの製造という非常に狭い業種で、日本が直面している市場の縮小や、それによる企業間の競争激化の中、この会社が生き延びていけるとはとうてい思えなかったからです。

 とはいえ会社の業績が悪かったわけではなく、むしろ好調でした。会社は父が地元経済界と太いパイプを築いていたため大きく成長しており、社員数も増加していました。しかし、その社内の実態は、父による「ワンマン経営」の悪影響が会社の隅々にまで浸透し、硬直状態に陥っていたのです。

 父から社長の座をバトンタッチする際、父からこんなことを言われました。

「私はずっとワンマンでやってきて、だから会社をここまで大きくすることができた。その代わりに、優秀な人材を採用することも、社員を育てることも一切してこなかった。だから、人についてはお前に何も引き継がせるものがない」

 会社には、社長の下で実務全般を担う番頭役の人さえいませんでした。役員から一般社員まで、全員が社長からの指示を待つだけ。7人いた役員など、決算書の読み方すら知らず、経営に関することは全く分かっていませんでした。

 現場でも、営業担当者は自社が造れる段ボールの注文を取りに得意先に行くだけ。製造現場は、機械を動かして注文どおりに段ボールを作るだけ。営業と製造、設計部門がひざを交えて、品質の向上や新たな技術導入、新製品作りに向けた議論をすることさえありませんでした。