今回のインフレの原因となったエネルギー、資源、穀物の高騰。ようやく落ち着いたかに見えたが、ロシアの穀物輸出合意停止で穀物価格が乱高下。原油価格も産油国は減産姿勢を崩さない。国際商品市況がインフレを再燃させるリスクはないのか。特集『中央銀行vsインフレ “新常態”時代の闘い』(全7回)の#3では、原油、小麦、銅、金の価格を専門家5人に予想してもらった。(ダイヤモンド編集部編集委員 竹田孝洋)
ウクライナ戦争で商品市況高騰
日米欧を襲ったインフレの大波
ロシアのウクライナ侵攻前も原油などエネルギー価格、小麦など穀物価格はじわじわと上昇していたが、2022年2月の侵攻開始を機に急騰した。
原油価格の代表的指標であるWTI(ウエスト・テキサス・インターミディエート)先物価格は年初の1バレル当たり70ドル台から2月末には100ドル前後に上昇、同じく代表的指標であるCBOT(シカゴ商品取引所)の小麦先物価格は、年初の1ブッシェル当たり7ドル台半ばから10ドル強へと値を上げた。
急騰の衝撃は大きかった。
米欧においては、新型コロナウイルスの感染拡大に伴うサプライチェーン混乱による供給制約が残る中、21年春からの経済再開や財政出動による多額の各種給付金で需要が増加し、インフレに拍車を掛けた。
米国では6月に消費者物価上昇率の前年同月比が9.1%に達し、ユーロ圏では10月に同10.7%に達した。結果として、政策金利の急激かつ大幅な引き上げを招いた。
日本は原材料価格上昇を理由に値上げが始まり、22年4月以降、生鮮食品を除く消費者物価上昇率の前年同月比が、目標である2%を上回り始めた。また期待インフレ率も上昇し、23年春闘の賃上げ率を押し上げ、それまでの「物価も賃金も上昇しない」という強固なノルムを溶解させた。
その後、原油、小麦とも価格が下落し、足元ではWTIは80ドル台前半、小麦はロシアの輸出合意停止で7月に一時急騰する場面もあったが現在は6ドル前後で推移している。
今の時点では、前年同月比で見れば(22年8月はWTI90ドル前後、小麦7ドル台後半)むしろ物価を押し下げる方向に作用している。
だが、当然のことながら景気動向、需要動向、供給動向によっては、インフレに再点火するリスクはある。そこで、5人の識者に商品市況の見通しを聞いた。
原油、小麦の行方に加え、さまざまな産業で使われることから、“ドクターカッパー”と呼ばれ世界景気を映す鏡といわれる銅相場、インフレや金利が決定要因となる金相場の行方も次ページ以降で予測してもらった。