欧米の中央銀行はインフレへの初期対応を誤った。新型コロナウイルスの感染拡大がもたらしたインフレの“新常態”を読み切れなかった。特集『中央銀行vsインフレ “新常態”時代の闘い』(全7回)の最終回では、コロナ禍前のディスインフレ時代と何が変わったのか、金融政策はどう変化するのかを分析した。(ダイヤモンド編集部編集委員 竹田孝洋)
FRBもECBも当初は
インフレを一時的と判断
FRB(米連邦準備制度理事会)、ECB(欧州中央銀行)は、2021年以降の物価目標を超えるインフレ率の上昇に対し、対応が遅れた。それがために、その後のインフレの高騰を招いた。
新型コロナウイルスの感染拡大前までは、労働需給が逼迫し、失業率が低下してもインフレ率はあまり上昇しなかった。ディスインフレの時代だった。
本特集#6でも触れたように、米国で21年春にインフレ率が目標値である2%を上回って上昇し始めた当初、パウエルFRB議長が、サプライチェーンの混乱が収まればインフレは収束すると考え、「インフレは一時的」と述べたのは、ディスインフレの時代と同じ基準で判断してしまったからだといえる。
ECBのラガルド総裁も、21年8月のインフレ率が、3%と目標である2%を大きく上回り始めた時点で「重要なのは、中期的な影響を持たない一時的な供給ショックに対し、過剰な反応を決してしないようにすること」と語っている。利上げに転じたのはFRBより4カ月遅い22年7月だった。
また、FRBもECBもコロナ禍対策として各種の給付金など多額の財政出動で家計に過剰貯蓄が積み上がっていたことの影響を把握し切れなかった。過剰貯蓄という油がまかれていたところに、サプライチェーンの混乱による供給ショックという火を付けたことでインフレはさらに加速した。
後述するように、労働需給の逼迫が続きやすい状況に変化したことも把握し切れなかった。
欧米の中央銀行はディスインフレ時代の常態にとらわれ、コロナ禍以降のインフレの“新常態”を読み切れず、対応が遅れた。次ページ以降、インフレの“新常態”を読み解き、それが金融政策にどういう変化をもたらすのかを分析してゆく。