課長の役割や責任は分かるが、実際に現場でのマネジメントのノウハウが分からず悩む中間管理職は少なくない。リモートの時代になった今となってはなおさらだ。そこで今回は、自分とチームの「気持ち」を知ることで最高の成果の生み出す『感情マネジメント』著者の池照佳代氏と、リモートワーク時代の新しいマネージャーの思考法をまとめた『課長2.0』著者の前田鎌利氏が対談。これからの時代のマネジメントに詳しい二人が、中間管理職が抱える1on1などに真っ正面から向き合う。今、求められる課長のあり方とは何なのでしょうか(構成/谷本明夢)。

離職率が24%→8%に!?「魅力的なリーダー」になるためにできる2つのこと「魅力的なリーダー像」をテーマに語り合った池照佳代さん(左)と前田鎌利さん(右)

ムードメーターの導入で
離職率が24%→8%に

――『感情マネジメント』著者の池照佳代さんは、本の中に書いてある感情マネジメントを、さまざまな企業に導入するために活動されています。実際に課長などの中間管理職からはどんな悩みを聞くのでしょうか。

池照佳代さん(以下、池照) 多くの会社の課長さんたちは、研修などで課長という役職の役割は習うのですが、一方で、それを現場でどのように実行できるのかというノウハウまでは習わないケースが多いんです。ですから「部下とどんなコミュニケーションを取ればいいのかわからない」というのが、中間管理職の一番の悩みのようです。

前田鎌利さん(以下、前田) そんな状態で1on1を実施するとどうなるか。どうやったらいいのか分からない状態なわけですから、1on1に入った瞬間に決め台詞のように「最近どうなの」と聞いてしまうわけです。そしてメンバーの方は、そう問われたら「大丈夫です」としか返しようがありません。そんな返事を聞いて課長は「大丈夫だったら、まあいいか」となってしまう。会話は一向に深まりません。

 そうならないように、1on1を始めるときは池照さんの著書『感情マネジメント』に書かれている「ムードメーター」を導入してみるのがいいと思います。

 ムードメーターとは、米国イェール大学の感情知性センターで開発されたもの。フィーリング(主観的な感情のレベル)とエネルギー(体の活力や体力のレベル)をそれぞれ10段階で表し、それぞれの階層が交わったところに「感情」を表す言葉が示されていて、今の感情を知ることができます。

 これを使うことで、「最近どう?」ではなくて、「今日はどんな感じ?」と聞けるようになります。そうすると、相手も答えやすくなる。

離職率が24%→8%に!?「魅力的なリーダー」になるためにできる2つのこと池照佳代さん著『感情マネジメント』

池照 私のクライアントさんの中に、ムードメーターを導入してから離職率が低下したという企業があります。そこはIT企業で社員の定着率が低く、当時の離職率は24%もありました。そこで管理職全員に感情マネジメントのワークショップを数ヵ月かけて受けてもらいました。

 同時に1on1では必ずムードメーターを使うことから始めてもらうようにしたんです。「最近どう?」という言葉から始めていた1on1を、ムードメーターを使って、「今日はどんな感じ?」という「How do you feel?」を問う質問に変えてもらった。それを続けて1年ほど経過すると、離職率は8%まで低下しました。

前田 それはすごい。

池照 私は人が好きですし、EQ(感情指数)も好きです。だからムードメーター導入以前も、自分のチームの仲間からは、いろんなことを話してもらっている方だと思っていました。でもムードメーターを始めてみると、メンバーが「仕事以外のことも話していいんだと思えるようになりました」と言ったんです。

 私はその前からみんな、仕事以外のことも話しているのだと思い込んでいたのですが、このように言われて初めて、メンバーはそうは思ってなかったんだと気づきました。

 リーダー本人は気づいてなくても、つい雑談のテーマが、リーダーの関心の高いテーマに偏りがちになる、ということはありますよね。仕事を終わらすために、とか、次の事業展開のために、という話題になってしまうわけです。でも私自身、1on1でムードメーターを使うようになってから、メンバーの思考や感情の広がりを可視化できるようになった。それが一番成果だなと思います。