芥川賞・直木賞の作品が10代の読者に「人気がない」納得の理由10代が投票したわけでもない。にもかかわらず、学校読書調査で上位に見られる本を選出し、見事に例年中高生の支持を集めている賞とは?(写真はイメージです) Photo:PIXTA

出版界にはさまざまな文学賞がありますが、中高生と特に相性がいい賞があります。一方で、芥川賞や直木賞作品は、学校読書調査では名前がほとんどあがらず、ある一作品だけ例外があったと言います。大人が選んだ賞にもかかわらず、10代に支持を集める本を毎回選んでいる賞とは?前回に続き、飯田一史さんの著作『「若者の読書離れ」というウソ 中高生はどのくらい、どんな本を読んでいるのか』(平凡社新書刊)から紹介します。

文壇の価値基準と10代のニーズの違い

 出版界にはさまざまな文学賞があるが、これらの受賞作は、中高生が読んだ本として学校読書調査上であがっているのか。

 もっとも著名と言える芥川賞や直木賞の受賞作は、学校読書調査では名前がほとんどあがらない。ということは、やはり中高生たちは、文壇の価値基準とはまったく異なる判断軸で本を選んでいると考えざるをえない。10代の三大ニーズは、

1 正負両方に感情を揺さぶる
2 思春期の自意識、反抗心、本音に訴える
3 読む前から得られる感情がわかり、読みやすい

 だが、文壇では3は好ましいものとされないことが多い。たとえば見るからに泣かせにかかっている「余命もの」などは「通俗的」と評価されて賞レースの俎上(そじょう)にのらない。語彙力が発達していない小中学生でも理解できる簡潔な文章よりも、知的に見える表現が用いられているほうが評価されやすい。だから芥川賞・直木賞受賞作には、三大ニーズすべてを満たす作品が少なくなる。