芥川賞・直木賞とは対照的に中高生と相性がいい賞とは?

 もっとも、例外がないわけではない。近年では宇佐見りんの芥川賞受賞作『推し、燃ゆ』がそうだ。同作は2021年、2022年と続けてランクインした。『推し、燃ゆ』は、「推し」(好きな対象)であるアイドルの「炎上」(SNSや世論が荒れること)に遭遇した主人公の高校生の話で、学校や家庭でうまくいっていない自分と、アイドルとして正統派ではない推しの姿を重ね合わせながら、日々の感情のアップダウンを描いている。

芥川賞・直木賞の作品が10代の読者に「人気がない」納得の理由宇佐見りん『推し、燃ゆ』(河出書房新社)

 アイドルを描いた小説やアイドルが書いた小説は数あれど、頭ひとつ抜けて読まれているのはこの作品が「アイドルものだから」ではない。もちろん、読者にとって身近な題材であることはプラスに作用してはいる。だがそれよりも、思春期の人間が普段抱えているモヤモヤや、言いたくても言えない本音がダダ漏れしており、推しに振り回されて感情がぐちゃぐちゃになるさまが描かれているからだ。四つの型にあてはまるものではないが、きっちり三大ニーズを満たしている。

 芥川賞・直木賞とは対照的に、本屋大賞と中高生(とくに高校生)の相性はいい。

 芥川賞・直木賞は、作家が審査員になって選ぶ賞であるのに対して、本屋大賞は全国の書店員が投票期間内に発売された新刊のなかから「いちばん売りたい本」を投票して決める。作家(送り手)視点ではなく、販売者(売り手)兼読者(読み手)の視点で決まる。書店員と中高生の感覚はそう遠くないということだろう。

芥川賞・直木賞の作品が10代の読者に「人気がない」納得の理由瀬尾まいこ『そして、バトンは渡された』(文藝春秋)

 本屋大賞の1位作品は、学校読書調査を見る限り、その年のみならず、その後数年にわたって主に中高生に読まれることが多い。たとえば2022年調査では、中学3年男女で瀬尾まいこ『そして、バトンは渡された』(2019年1位)、中3女子で辻村深月『かがみの孤城』(2018年1位)が入った。高校生になると逢坂冬馬(あいさか・とうま) 『同志少女よ、敵を撃て』(2022年1位)、町田そのこ『52ヘルツのクジラたち』(2021年1位)、凪良(なぎら)ゆう『流浪の月』(2020年1位)が入っている。

 2021年調査では高2男子に恩田陸『蜜蜂と遠雷』(2017年1位)、高1女子に『そして、バトンは渡された』、中2・中3・高1・高3女子に『かがみの孤城』、高3女子に『52ヘルツのクジラたち』、2019年調査では高1男子に『かがみの孤城』、中3・高2女子に『蜜蜂と遠雷』、中3女子・高3女子に『そして、バトンは渡された』、高2女子に宮下奈都『羊と鋼の森』(2016年1位)が入っている。どうも受賞から4、5年たつと基本的には入れ替わっていくようだ。

 本屋大賞の受賞作の特徴は何か。この賞では、苛烈な環境、ないし定型的ではない家族関係・人間関係に置かれた子ども・若者の成長過程を描き、終盤に切ない激情が爆発する(「エモい」)タイトルが獲りやすい傾向にある。