見事に例年中高生の支持も集めている本屋大賞

 町田そのこの『52ヘルツのクジラたち』は、東京から大分の田舎にある亡き祖母の持ち家に引っ越してきた社会人の女性が主人公で、彼女はうまく言葉の話せない少年を母親からの虐待から守るために共同生活を始める。

芥川賞・直木賞の作品が10代の読者に「人気がない」納得の理由町田そのこ『52ヘルツのクジラたち』(中央公論新社)

 主人公は「ワケあり」で、その経験と過去の後悔からくる贖罪(しょくざい)の気持ちがあるからこそ、傷ついた少年に手を差し伸べる。描かれるのは、親からの虐待、心の傷を原因とした失語、妾だった祖母、ALSになった養父の介護、浮気されてもなお続けている愛人関係、束縛とDV、自殺と刃傷、誘拐犯扱い、縁もゆかりもない未成年を引き取ることの難しさ……等々であり、それらからのシェルターとなるのが、恋人でも親友でも家族でもないが特別な信頼のある人間関係である。

 本屋大賞1位のこれらの作品で描かれている関係性は「家族」や「恋人」のようにわかりやすいものではない。テーマも「家族の絆」「友情」「恋愛感情」などとひとことで片付けられるものでもない。デスゲームや余命ものほどシンプルな設定ではなく、そういう意味では「読む前からわかる」話ではない。

 だが、物語のなかでは難しい環境に置かれた子ども・若者が中心人物となり、悩み、傷つき、しかし最後にはカタルシスが得られる――「自意識+どんでん返し+真情爆発」型の作品が少なくない。本屋大賞受賞作品は「親にも友だちにも言えない悩みを抱えた子ども・若者が登場する」「ラストは感動」という点が共通することが多く、1、2作読んだことがある人間にとっては、同様の種類の感動が期待できると「読む前からわかる」 のである。

 全国書店員が狙って毎年こういうタイプの作品に投票し、1位にしているわけではないだろう。しかも書店員の多くは社会人であって、10代が投票したわけでもない。にもかかわらず、見事に例年中高生の支持も集めているのは興味深い。『このミステリーがすごい!』をはじめとする各種ミステリーランキングなど、作家や書評家などによる投票形式のアワードは数あれど、それらのトップ作品が学校読書調査での上位に見られるかといえばまったくそうではない。本屋大賞以外は、大人が投票して決めた賞・ランキングと中高生の読書傾向とは噛み合っていない。