注目を集める「FIRE」
実現すれば幸せになれるのか

青年:最近になってよく聞く言葉が、FIREですね。ファイナンシャル・インデペンデンス・リタイア・アーリーの頭文字を略したものです。経済的独立をはたして早期退職しようというムーブメントですが、先生はFIREをどう見ていますか?

幸福学の先生(以下、先生):「一刻も早く、働くのをやめるために働く」という価値観は、幸福学の観点からいうと、あまりおすすめではありません。わたしがパーソル総合研究所と共同でおこなった調査では、「あなたは、あと何年働きたいですか?」という質問に対し、幸せな人ほど「できるだけ長く働きたい」と答えています。逆に、幸せでない人は「すぐにでもリタイアしたい」と答えている。

 それと、もうひとつ「あなたは、あと何年働かなければならないですか?」という質問もしているんです。さっきとは微妙にニュアンスが異なることに気づいたでしょうか? この質問では、「長い年数を答えた人」ほど不幸せだという結果が出ています。

青年:ぼくも早くリタイアしたいと答えてしまう気がするな。一方で、現実的には長く長く働かなければ生きていけない、と思っているし。

先生:おそらくFIREに憧れている人は、「働かなければならない」という意識が強すぎるんじゃないかな。それを「働きたい」のほうにシフトしていければ、FIREなんてしなくたって幸せな人生を送ることができるはずです。わたし自身、身体が続くかぎり「働きたい」と思っています。

 それにFIREといえば、何かと海外で悠々自適の生活と見られがちですが、実際はそうでもないですよ。わたしのある知り合いは早期退職して、二ュージーランドに移住したんです。でも半年くらいしたら、日本に戻ってきてしまいました。理由を聞くと、「お金はたくさんあるけど、もうこんな目的のない暮らしはしたくない」といっていました。それで、もっと社会のためになるビジネスをやりたいと語り、また仕事にまい進することになったのです。

 ニュージーランドで半年間のんびりしたことで、本当に自分がやりたいことは何なのかを再発見したんでしょう。そのように、自分自身を見つめ直す期間と考えれば、疑似的にFIREをしてみるのもわるくないかもしれません。サバティカルみたいなものです。