「渡り鳥の群れ」のような会社をつくるにはどうすればいいのだろうか? 強烈なリーダーに「統率」されるのではなく、それぞれが個として「自律」していながら、同時に群れをバラバラに崩壊させないためには、なにが必要なのだろうか──? こうした問題意識から出発して、これからの企業理念のあり方を探索した『理念経営2.0』の著者・佐宗邦威さんによる対談シリーズ。
今回は、「夢に手足を。」「やさしく、つよく、おもしろく。」といった理念を掲げながら、株式会社ほぼ日を経営している糸井重里さんをゲストにお迎えする。もともとはコピーライターという「ことばをつくる仕事」から出発した糸井さんは、なぜ佐宗さんの『理念経営2.0』に注目したのか? ほぼ日の企業理念の背景には、どんな発想があるのか?(第3回/全3回 構成:フェリックス清香 撮影:疋田千里)。

【糸井重里さん「理念経営」を語る】「いい理念は“凝縮”しても出てこない。大事なのは“散らかす”こと」

みんな「ダベり」を求めている

糸井重里(以下、糸井) ほぼ日には「公園部」というのがあるんです。会社のなかにみんなが集まれる場(公園)をつくるわけですね。ボランティアでやりたい人がやっていて、部署っていうより部活というか、福利厚生の部類に入るのかな。

 その公園部の人たちは最初、会社のなかの「公園」に将棋盤やテーブルゲームを置いたりしていたんですよ。「遊び道具がないと退屈かな」と思ったんでしょうね。ですが、まあ、だれも将棋はやらないですよね。それで、昼間にはお菓子の出る喫茶店、夜はスナックをやってみたら、すごく人気が出たんですよ。ふだんなかなか顔を合わせない人がそこに来て、ただ飲んでダベってる。それがいいんですよね。

佐宗邦威(以下、佐宗) そのかんじ、すごくわかります。ぼくの会社でもオフィスに卓球台を置いてみたんですが、ほとんど使われませんでした(笑)。うちの会社はいったんオフィスを手放すことになって、旅をしながら仕事をするようなスタイルにしようと話をしているんです。それで「旅先で具体的に何をしたい?」と聞いたら、みんな別に観光がしたいわけではなく、「いろんな場所でダベりたい」って言うんです。今、みんなが求めているものはそれなんだなって。

糸井 話すことってやっぱりものすごく魅力があるんですよね。ぼくは、今考えていることを本にしなくてもいいと思っているんです。本にしようとすると、何かグズつくんですよ。いったん仮組みするようなものになって、不自由さがあるし、だいぶ時間を取られるんですよね。一方で、会ってしゃべると、全体性を持ってやりとりができるんです。ほぼ日の難儀なところはそこなんですよね。

佐宗 でも、『すいません、ほぼ日の経営。』(川島蓉子さんとの共著、日経BP)を出されていますよね。

糸井 それはもう、ギリギリですねー(笑)。だから、謝っておいた。

佐宗 それでタイトルに「すいません」って入れたんですね(笑)。

糸井 今の時点で、形になっていないものを形にしようとすると、やっぱりだいぶ痩せるんですよ。言語化では落ちてしまうものがたくさんある。今日の話も記事になるみたいですが、今こうやって話し合っていても、記事では伝えきれないたくさんのものをいろいろ伝えられるんですよね。

【糸井重里さん「理念経営」を語る】「いい理念は“凝縮”しても出てこない。大事なのは“散らかす”こと」
糸井重里(いとい・しげさと)
株式会社ほぼ日代表取締役社長
1948年生まれ、群馬県前橋市出身。1971年にコピーライターとしてデビュー。西武百貨店「不思議、大好き。」「おいしい生活。」など数々のキャッチコピーで一世を風靡、また作詞やエッセイ執筆、ゲーム制作など、幅広いジャンルでも活躍。1998年に毎日更新のウェブサイト「ほぼ日刊イトイ新聞」創刊。『ほぼ日手帳』をはじめとする生活関連商品や、AR地球儀『ほぼ日のアースボール』、「人に会おう、話を聞こう。」をテーマにお届けする『ほぼ日の學校』などさまざまなコンテンツの企画開発を手がける。2017年東京証券取引所JASDAQ市場(現・スタンダード市場)に上場。著者に『インターネット的』(PHP文庫)、『すいません、ほぼ日の経営。』(川島蓉子さんとの共著、日経BP)、『生まれちゃった。』(ほぼ日)など多数。