「ただの小見出し」よりも
「世界をちょっと広げる言葉」を

糸井 この間、お寺の鐘の音でブランド論が説明できるんじゃないかと思ったんですよ。鳴らす瞬間は衝突にすぎないけれど、そこから音という波が出ますよね。その波こそがブランドなのだろうなって。

 たとえば、エルメスがバーキンをつくったのはその瞬間のことだけれど、その後で人々が評判にすることでブランドになる。言葉も同じで、なにかを凝縮したものじゃなくて、波が広がっていくようなものなんだよなと思いました。

佐宗 つまり、鐘を打つ衝突というのが、商品をつくることだったり、言葉を発することだったりするわけですね。でも、それは一瞬のことに過ぎなくて、むしろそのあとに起こる「波」の部分が大事。おもしろいですね。

糸井 ぼくは経営をちゃんと学んだ人間ではないので、本当に「すいません」なんですが、これだけ覚えておけば経営ができるなと思ったのが、ドラッカーの「企業の目的とは『顧客の創造』である」という言葉だったんです。すごい言葉ですよね。

 言ってみれば雑なんですが、これができていない会社はダメだと思うんです。そして、言葉も顧客を創造するものだと言えると思うんですよ。つまり「おいしい」という言葉の小石を投げることによって、「おいしい」に影響される人たちを生み出しているんです。

 逆に、うまくまとめたような「小見出し」みたいな言葉は、顧客創造をしていないんですよね。読まなくてもいいものになっちゃうんです。何か言葉にしたことで、世界をちょっと広げる。新しく今までになかった何かを生み出す。誰かを笑わせる。そんなふうな言葉をつくることは、やったほうがいいと思うんです。

 佐宗さんの会社の経営理念も、今までになかったからつくることになっちゃった。つくるのは大変だったと思いますけれど、みんなの気持ちとしては「ヒントになるような嫌じゃない言葉があるなら、一回乗りますよ」っていう感じではないでしょうか。

「なんとかしてあそこに行け」と言われるのと、「会社に社用車があるから、それを使って行ってきて」と言われるのとは大違いです。経営理念の言葉というのは、そんな社用車みたいなものなのかもしれませんね。

佐宗 糸井さんの組織に対する考え方は「いろいろな人がいていい社会」なんだなと感じました。もしかしたら、まちづくりのときに必要なビジョンや文化などにも通じるものかもしれませんね。会社ではなく、社会を経営されている人ならではの目線をお伺いして、目が開かれる思いでした。本日はおもしろいお話を、どうもありがとうございました!

【糸井重里さん「理念経営」を語る】「いい理念は“凝縮”しても出てこない。大事なのは“散らかす”こと」

(対談おわり)