第2の可能な答えは、ダーウィンの考えをもとにしている。つまり、ヒゲは装飾であり、先史時代の女性を魅了し、おそらくは今日の女性をも魅了しうるという考えである。

 第3の論理は、毛はライバルである他の男たちを脅すための威嚇の装置であり、支配を確立するためのものだという。だとすると、女たちはヒゲそのものに惹かれるのではなく、印象的なヒゲをもつ男性が他の男たちに対してもつ社会的な優越性に惹かれることになる。

ヒゲは「装飾」男子の必需品
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 装飾としてのヒゲというダーウィンの理論は、長期にわたってかなりの科学的な賛同をえた。支持者の一人は進化心理学者のナンシー・エトコフである。外見のよい相手を求めることは「人類の普遍的な経験の一部」であり、それは「喜びを誘い、注目を促し、遺伝子を確実に生き残らせる行動をとらせる」と論じた。研究がさらに示したところでは、身体的な外見を考慮する場合、女性はとくに顔に焦点を絞る。

 男性の顔をみるときに、女性は無意識のうちに将来のパートナーの遺伝子の良否を値踏みしているといえるだろう。この考えは動物行動の研究によって提唱された。クジャクなどにみられるように、ある種の鳥は際立った色や尾を進化させた。性的なパートナーに好かれるためである。最も長い尾羽をもつクジャクは最も多く子孫を残し、何世代もたつうちに尾羽はさらに長くなる。

 印象的な見た目を示す動物は、自分が健康だということをみせているのであり、それはつまり、性的なパートナーとして望ましいということを示しているという。ヒゲでも同じことがいえるかもしれない。先史時代の女性は、男の顔によって健康かどうかを判断したのかもしれない。

 この「よい遺伝子」概念は、1990年代のホルモン研究で生物学者が「免疫能」理論を発展させたことによって、さらに強化された。その考えによれば、体が大きいことはよい健康状態を示すだけではなく、病気に対する免疫の強さを直接に示す。動物界で、しっぽや角や何であれ大きいものをもつオスは、実際のところ、「みろ。免疫機能が抑えられていてもこんなことができるんだ!」、こうメスに対して語っているのである。おそらく人間のヒゲは、尾羽か枝角と類似のものだろう。ヒゲもテストステロンによって生じたオスのディスプレイであり、遺伝子の能力を示す広告掲示板なのである。