この50年の間、性的なパートナーや配偶者、従業員、選挙の候補者を選ぶ際にかかわってくるステレオタイプや偏見を測定するために多くの実験がおこなわれ、異なる種類の男性の顔に対する反応と印象が示されてきた。そのすべてが「装飾としてのヒゲ」理論に光を当てている。男性からみても女性からみても、ある男の第一印象がヒゲの有無で大きく違うという結論は、ほぼ共有されている。ヒゲはほとんどいつも、ある男性を、より年長でより男性的にみせる。しかし、魅力的にみせるのだろうか。これに関しては、研究によって異なる結論に至っている。

 21世紀の最初の10年間までに、8つの研究がヒゲを魅力的だと示した一方で、8つの研究が魅力に欠けると示したのである。あと2つの研究では混合する結果が示された。「装飾としてのヒゲ」理論に決定的な証拠をみつけたいと思う人はみな不満をもつことになったといえるだろう。あるいは、もしかするとたんに装飾理論が間違っていて、社会的武器としてのヒゲの進化を示しているだけなのかもしれない。

「ライバルを威嚇する武器説」に迫る
「さがれ、私の方が強い」のメッセージ

「装飾としてのヒゲ」理論の証拠が決定的でないことから、競合する「武器としてのヒゲ」理論への道が開かれる。しかし、ヒゲはどうやって男たちが戦うのを助けるのか。社会生物学者のR・デイル・ガスリーは一つの説を示した。威嚇である。動物界のなかで性的優位をつくろうとするオスの競争は明白である。クジャクの鮮やかな羽による壮大なディスプレイは、ガスリーの説明によればメスを引きつけるためではなく、ライバルのオスを威圧するために機能する。そのメッセージは「私を選べ」ではなくて「さがれ、私の方が強い」なのである。

 サルの間では、歯をむき出しにすることやその他の口の動きが社会的な合図として重要な役割を果たす。初期人類の暴漢たちは歯をむいてうなって威嚇し、周囲を脅えさせたのだ。あごを突き出してさらに効果を上げたかもしれない。毛の生えたあごも同じような目的で機能する。それは口と顔を大きくみせることから、より威嚇的にみえる。

 もしもヒゲが女性に印象を与えるよりも男性を威嚇するためのものだとするならば、心理学実験で、女性は関心を示さず、男性は恐怖を示すことが観察できるかもしれない。諸研究では、ヒゲのある男性は、女性にとっても男性にとっても、より説得力があり、荒々しく、攻撃的にみえることが明らかにされた。