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「なぜヒゲは生えるのか」。150年ほど前からチャールズ・ダーウィンをはじめ数多くの科学者たちは、ヒゲに潜む秘密を解き明かそうと実験と研究を重ねてきた。男らしさのシンボルはどのようにして生まれたのか。
性行為を期待すると伸びる?
ヒゲの進化の疑問に3つの答え
文明は自然と闘っている。少なくとも顔の毛に関する限りこれは真実である。何世紀にもわたる闘いが最初にどう始まったのか、立ち止まって考えてみる人はほとんどいなかった。自然はなぜ男に、そしてときに女にも、ヒゲを与えたのか。毛が、どのようにしてほおとあごに生えるようになったのか。ヒゲの意味を発見したいならば、こういう基本的な問題から始めることが道理にかなっている。そのためには茫漠たる進化の道筋をみつめてみる必要があるだろう。
生物学者は、ヒゲとはげの両方が、テストステロンなどの男性ホルモンによって促されること、そして、伸びる速さがホルモン分泌の自然なサイクルによって変わることをつきとめた。ある科学者は1970年の『ネイチャー』誌で、遠方にいる恋人を訪れる前の数日にヒゲが速く伸びたことがわかったと報告した(ヒゲ剃り後に電気カミソリ内にたまった毛の重さを量った)。そこから、性行為を期待することで男性ホルモンのレベルが急上昇し、ヒゲがより速く伸びることになったと推論した。
近年では、男性ホルモンを毛包とつなげる顔と頭皮の内分泌経路が、生物学者によってつきとめられている。ヒゲが生えて毛がなくなるメカニズムの一部に男性ホルモンが存在することは明らかになったのだが、だからといって、男性ホルモンがどうしてその機能を進化させたのかという説明にはなっていない。
ヒゲの起源について思案してきたチャールズ・ダーウィンは『人間の由来』(1871年)のなかで性選択の過程を記した。個体は、性のパートナーに好まれるように種のなかで互いに争う。この競争の目的から、動物は多くの二次的な性的特徴を進化させたとダーウィンは判断した。
たとえば性のライバルに勝つための武器としての角や牙、将来の相手を引きつける装飾としての色鮮やかな毛や羽である。より魅力的な装飾を身にまとっていたりより強い武器をもつ個体は、自己の再生産に成功し、その特徴を遺伝させていく。ダーウィンは、人間のヒゲを装飾のカテゴリーに分類し、それが女性を引きつける力をもつと想像した。
現在のところ、研究者は、ヒゲをめぐる難問に3種類の基本となる答えを提起している。第1は、ヒゲにはまったく目的がないというものである。しかし多くの科学者はそこに落ち着こうとしなかった。無意味だという推測は立証できないからである。少なくともすべてのヒトゲノムの機能が解明されるまでは、ヒゲがたんに面白半分で生えていると言い切ることはできない。
第2の可能な答えは、ダーウィンの考えをもとにしている。つまり、ヒゲは装飾であり、先史時代の女性を魅了し、おそらくは今日の女性をも魅了しうるという考えである。
第3の論理は、毛はライバルである他の男たちを脅すための威嚇の装置であり、支配を確立するためのものだという。だとすると、女たちはヒゲそのものに惹かれるのではなく、印象的なヒゲをもつ男性が他の男たちに対してもつ社会的な優越性に惹かれることになる。
ヒゲは「装飾」男子の必需品
遺伝子の能力を示す広告掲示板
装飾としてのヒゲというダーウィンの理論は、長期にわたってかなりの科学的な賛同をえた。支持者の一人は進化心理学者のナンシー・エトコフである。外見のよい相手を求めることは「人類の普遍的な経験の一部」であり、それは「喜びを誘い、注目を促し、遺伝子を確実に生き残らせる行動をとらせる」と論じた。研究がさらに示したところでは、身体的な外見を考慮する場合、女性はとくに顔に焦点を絞る。
男性の顔をみるときに、女性は無意識のうちに将来のパートナーの遺伝子の良否を値踏みしているといえるだろう。この考えは動物行動の研究によって提唱された。クジャクなどにみられるように、ある種の鳥は際立った色や尾を進化させた。性的なパートナーに好かれるためである。最も長い尾羽をもつクジャクは最も多く子孫を残し、何世代もたつうちに尾羽はさらに長くなる。
印象的な見た目を示す動物は、自分が健康だということをみせているのであり、それはつまり、性的なパートナーとして望ましいということを示しているという。ヒゲでも同じことがいえるかもしれない。先史時代の女性は、男の顔によって健康かどうかを判断したのかもしれない。
この「よい遺伝子」概念は、1990年代のホルモン研究で生物学者が「免疫能」理論を発展させたことによって、さらに強化された。その考えによれば、体が大きいことはよい健康状態を示すだけではなく、病気に対する免疫の強さを直接に示す。動物界で、しっぽや角や何であれ大きいものをもつオスは、実際のところ、「みろ。免疫機能が抑えられていてもこんなことができるんだ!」、こうメスに対して語っているのである。おそらく人間のヒゲは、尾羽か枝角と類似のものだろう。ヒゲもテストステロンによって生じたオスのディスプレイであり、遺伝子の能力を示す広告掲示板なのである。







