ヒゲは性行為を期待すると伸びる?ヒゲが生える「3つの理由」歴史学者が迫る写真はイメージです Photo:PIXTA

「なぜヒゲは生えるのか」。150年ほど前からチャールズ・ダーウィンをはじめ数多くの科学者たちは、ヒゲに潜む秘密を解き明かそうと実験と研究を重ねてきた。男らしさのシンボルはどのようにして生まれたのか。

※本稿は、クリストファー・オールドストーン=ムーア『ヒゲの文化史』(ミネルヴァ書房)の一部を抜粋・編集したものです。

性行為を期待すると伸びる?
ヒゲの進化の疑問に3つの答え

 文明は自然と闘っている。少なくとも顔の毛に関する限りこれは真実である。何世紀にもわたる闘いが最初にどう始まったのか、立ち止まって考えてみる人はほとんどいなかった。自然はなぜ男に、そしてときに女にも、ヒゲを与えたのか。毛が、どのようにしてほおとあごに生えるようになったのか。ヒゲの意味を発見したいならば、こういう基本的な問題から始めることが道理にかなっている。そのためには茫漠たる進化の道筋をみつめてみる必要があるだろう。

 生物学者は、ヒゲとはげの両方が、テストステロンなどの男性ホルモンによって促されること、そして、伸びる速さがホルモン分泌の自然なサイクルによって変わることをつきとめた。ある科学者は1970年の『ネイチャー』誌で、遠方にいる恋人を訪れる前の数日にヒゲが速く伸びたことがわかったと報告した(ヒゲ剃り後に電気カミソリ内にたまった毛の重さを量った)。そこから、性行為を期待することで男性ホルモンのレベルが急上昇し、ヒゲがより速く伸びることになったと推論した。

 近年では、男性ホルモンを毛包とつなげる顔と頭皮の内分泌経路が、生物学者によってつきとめられている。ヒゲが生えて毛がなくなるメカニズムの一部に男性ホルモンが存在することは明らかになったのだが、だからといって、男性ホルモンがどうしてその機能を進化させたのかという説明にはなっていない。

 ヒゲの起源について思案してきたチャールズ・ダーウィンは『人間の由来』(1871年)のなかで性選択の過程を記した。個体は、性のパートナーに好まれるように種のなかで互いに争う。この競争の目的から、動物は多くの二次的な性的特徴を進化させたとダーウィンは判断した。

 たとえば性のライバルに勝つための武器としての角や牙、将来の相手を引きつける装飾としての色鮮やかな毛や羽である。より魅力的な装飾を身にまとっていたりより強い武器をもつ個体は、自己の再生産に成功し、その特徴を遺伝させていく。ダーウィンは、人間のヒゲを装飾のカテゴリーに分類し、それが女性を引きつける力をもつと想像した。

 現在のところ、研究者は、ヒゲをめぐる難問に3種類の基本となる答えを提起している。第1は、ヒゲにはまったく目的がないというものである。しかし多くの科学者はそこに落ち着こうとしなかった。無意味だという推測は立証できないからである。少なくともすべてのヒトゲノムの機能が解明されるまでは、ヒゲがたんに面白半分で生えていると言い切ることはできない。