美の最先端には、どんな世界が広がっているのだろうか。特集『美容医療 美は金で買える』(全8回)の#6では、再生医療から男性専用美容クリニックまで、最新美容医療の現場をレポート。併せて、美容医療のメニューと相場も紹介する。(ダイヤモンド編集部 相馬留美)
美容医療業界が大注目の再生医療
施術は注射療法で100万超もざら
美容クリニックが乱立する東京・表参道。その一角にあるアヴェニューセルクリニックの中には、小さな細胞培養加工室がある。
「億円単位の資金を投資し、自力で造りました」
そう語るのは、東京大学医学部出身の美容医師、辻晋作再生医療統括医師だ。
形成外科出身の辻氏は美容クリニックを運営していたが、2016年に幹細胞を用いる再生医療専門のクリニックとして同院を立ち上げた。
専門の培養士を雇い、顧客から採取した少量の組織を約3~4週間かけて培養し、間葉系幹細胞を最終的には数千万から2億個程度まで増やす。
美容医療で今、最も注目されているビジネスが、「再生医療」である。
再生医療の一つである、血液から血小板の成分を濃縮して患部に注入する「PRP治療」は、大学病院などで実施されていた。ところが特に規制がなかったため、しわを取るといったいわゆる“アンチエイジング”の手法として、美容クリニックが取り入れていった。
しかし、14年11月の再生医療等安全性確保法(再生医療新法)施行により、治療を始めるためには国の特定認定再生医療等委員会の審査を通過することが求められ、参入に時間がかかるようになった(国に登録されている機関は厚生労働省のHPに掲載されている)。
審査される再生医療は、リスクに応じて3種類に分けられる。「第1種」が、ES細胞やiPS細胞のようなヒトに未実施の高リスクなもの、「第2種」は体性幹細胞など中リスクなもの、「第3種」は体細胞を加工した低リスクなものである。
血液を加工するPRP治療は第3種に当たるが、細胞を培養する幹細胞を用いた治療は第2種に当たるため、承認のハードルが高い。
細胞培養専門の会社もあり、初期投資を考慮して培養を外部の施設に任せるクリニックも存在する。しかし辻氏は、「差別化のためにできることがあまりない」と細胞培養を自ら手掛ける道を選んだ。「『契約農家』に任せるのではなく、自分たちが『農家』になるところから始めようと考えた。実際に培養すると、細胞の特徴がだんだん分かってきた」(辻氏)。
現在は、形成外科領域をはじめとした9種類の再生医療の治療を行っている。もちろん、全て自由診療だ。最も多い施術は、軟骨損傷などによる関節痛の治療。幹細胞を関節内に注射するものだ。
美容医療向けの広告は出していない。ただ、辻氏がもともと手掛けていた美容クリニックの客同士のクチコミで広がった。
脂肪由来の幹細胞を利用する場合、診察の後、まずへその上などから米粒3個ぶんくらいの脂肪と血液を採取する。この細胞を約1カ月弱かけて培養し、目的の部分に注射するという流れだ。
細胞の培養という手間がかかり自由診療であるため、当然ながら高額だ。同クリニックでは、皮膚のしわなど皮膚の加齢性変化に対する局所注射療法は1回60万円程度。細胞培養を外部の施設に委託する他のクリニックでは、同種の施術の料金が100万円を超えることも珍しくない。
細胞を利用する高額な自由診療はどこも参入したくて仕方がない分野だ。とはいえ、国に申請する必要があり、審査を通過するまでに時間もかかる。簡単に始めることはできない。
ある大手美容クリニックの院長は、「幹細胞治療は届け出をするのが大変。今うちが臨床をやろうと思っているのは『エクソソーム』(細胞が分泌する膜小胞)による再生医療。こちらは細胞を使わないから届け出が要らないんだよ」と語る。
何とかして法律の抜け穴を見つけようと躍起になる姿からも、美容向けの再生医療は巨大な金脈であることが伝わってくる。