歴史を学びたいならまず歴史・時代小説から

今村:僕は大学時代に留学生と話していて「なぜ武士がいないのか?」と聞かれたときの説明が意外と大変でした。「武士はなんでいなくなったの?」「明治政府が倒したんや」「明治政府ってどっから来た?」「あいつらも武士なんや」「じゃ、明治政府の人たちはいつ武士やめたの?」……という感じで、説明が難しいんです。

やっぱり、自分の国の歴史すら知らないというのはちょっと恥ずかしいし、そこで歴史・時代小説を入口にすると結構学びやすいし、日本についても話せるようになる。

永井:年表を覚える勉強は受験で終わるのが普通で、とてもじゃないけど、そのあと好奇心を持って続けようとは思えない。だけど小説を読めば「あのときのあの人が、こんなふうに!」みたいな発見があるから、絶対面白いはずなんです。

【直木賞作家スペシャル対談】歴史小説を読んで何の得になるんですか?

今村:ある作家さんと別の作家さんで描き方が違うから、両方を読むと補完されて知識が立体的になっていくんですよね。

永井:同じ人物を3人ぐらいの作家で読んだら、角度が違うから絶対面白いです。「明智光秀、めっちゃいいやつじゃん」っていうこともあれば、「ダメじゃん」っていうこともあって、同じ事件を描いていても全然違う。

いきなり学術論文みたいなところから読もうとすると、それなりのパッションが必要だけど、そのパッションを熟成させるには、歴史小説から入るのがいいんじゃないかな。

歴史小説は怖くない

今村:歴史小説家は、歴史学者に叩かれることもありますが、僕らが広い意味での歴史好きを増やしているという自負はあるんです。

永井:もちろん、歴史研究をされる方々は尊敬しています。でも同時に一般の人たちの好奇心の発端は、フィクションであることも多いと思うんです。例えば、源義経について知りたいと思うきっかけって、歌舞伎や小説、漫画だったりする。

そこから「現実はどうだったの?」と興味を持つ。忍者ハットリくんから忍者に興味を持つ外国人の方もいる。フィクションがあってこそ、知識・興味が広がっていく部分は大きいと思うんです。

今村:僕は自分のラジオで「だまされたと思って歴史小説を買ってみて」と訴えることがあるんですけど、歴史小説はそれだけ手に取ってもらうまでのハードルがものすごく高い。みんな歴史小説を勝手に「怖いもの」だと思い込んでいるんです。

永井:「歴史小説ファン」のイメージが、若い人にとって圧になっているのかもしれませんね。でも、実際は誰も「君はどこまで読んだのかね」なんて言わないですから、気軽に読んでほしいです。

※本稿は、『教養としての歴史小説』(ダイヤモンド社)の刊行を記念した特別対談です。