福田は、総理引退後、世界人類の将来を見越して通称「OBサミット」を立ち上げる。本来なら思想的には相いれないはずの西ドイツの元首相ヘルムート・シュミットとともに、環境問題から戦争、核問題、貧困などあらゆる分野で自国の利益を超え国際社会に提言し続ける。今から40年も前から。通訳として、事務局責任者して、裏舞台までもつぶさに見て、記録してきた著者だから書き得た書籍『OBサミットの真実---福田赳夫とヘルムート・シュミットは何を願っていたのか』。今回から3回にわたり、本書解説者の作家/政治史研究家、瀧澤中氏より本書の解説をしていただきます。

解説『OBサミットの真実』第1回 かかる政治家ありき

一人の日本人によってつくられた

超大国によって核が発射されるかもしれない。
環境問題が深刻になっていく。
規律なき経済活動が世界の安定を脅かす。
発展途上国での食糧危機。
終わりの見えない地域紛争。

 これは今のことではない。40年前、1983年前後の世界が直面していた状況である。

 現在、本質的にはこれと同じような状況が現出している。

 ロシアのウクライナ侵略や中国による台湾侵攻の危機、世界で起こる異常気象と環境破壊、ゲーム的投機による経済の混乱、人口激増に加え気候や戦乱のしわ寄せで食糧難に苦しむ途上国。

 いまと同じような危機に迫られたとき、的確に未来を予想し、その解決策について提言し続けた人々がいた。

 それが、OBサミットである。

 だからこそいま、OBサミットを知る意味がある。

 40年前の1983年。

 OBサミットは世界の「元」首脳たちによる国際会議体で、回数を重ねるにつれ、他の国際会議では実現し得ないほどの顔ぶれを集めていく。

 西ドイツで8年以上も政権を維持した鉄人宰相ヘルムート・シュミットや、欧州統合の立役者の一人であるフランスのディスカール・デスタン、奇跡の経済成長を実現しアジア新時代を築いたシンガポールのリー・クアンユー、元ケネディー政権の国防長官で世界銀行総裁だったロバート・マクナマラ等々。
 
 そして彼らを集めたのは、一人の日本人、福田赳夫であった(福田については次回以降に詳しく触れる)。