福田は、総理引退後、世界人類の将来を見越して通称「OBサミット」を立ち上げる。本来なら思想的には相いれないはずの西ドイツの元首相ヘルムート・シュミットとともに、環境問題から戦争、核問題、貧困などあらゆる分野で自国の利益を超え国際社会に提言し続ける。今から40年も前から。通訳として、事務局責任者して、裏舞台までもつぶさに見て、記録してきた著者だから書き得た書籍『OBサミットの真実---福田赳夫とヘルムート・シュミットは何を願っていたのか』。前回から3回にわたり、本書解説者の作家/政治史研究家、瀧澤中氏より本書の解説をしていただきます。
「渥美メモ」に書かれた歴史の真実
本書カバーを外すと、そこには、『OBサミットの真実』(以下、「本書」と記す)著者の渥美桂子氏が書いた、およそ2000点にも及ぶ膨大なメモの一部が、写されている。
福田赳夫の通訳として活躍した渥美氏が書いた、OBサミット参加各国首脳の「生の声」である。
OBサミットでの会話は経済、安全保障、環境、人権など、相当な専門知識がなければ訳すことはできない。これらを瞬時に訳し、また福田の意図することを相手に伝える作業は、単なる語学能力以上のものが求められる。
渥美氏はアメリカのオクシデンタル大学(バラク・オバマの出身校)を卒業し、世界銀行に勤務。欧米の経済誌に記事を書き、書籍の翻訳をするなど、福田の通訳となるには最適の人物であったと言わねばならない。
渥美氏が福田の通訳になったいきさつは、劇的である。
福田のアメリカでの講演時、外務省がつけた通訳がまったく役に立たず、福田が会場に向かって「誰かきちんと通訳できる方はいないか」と呼びかけ、そこで思わず手を挙げたのが渥美氏であった。
渥美氏は福田の本音や、普段表に出さない話も聞くことになる。だからこそ本書には生々しく、福田の人間像が描かれている。