福田は、総理引退後、世界人類の将来を見越して通称「OBサミット」を立ち上げる。本来なら思想的には相いれないはずの西ドイツの元首相ヘルムート・シュミットとともに、環境問題から戦争、核問題、貧困などあらゆる分野で自国の利益を超え国際社会に提言し続ける。今から40年も前から。通訳として、事務局責任者して、裏舞台までもつぶさに見て、記録してきた著者だから書き得た書籍『OBサミットの真実---福田赳夫とヘルムート・シュミットは何を願っていたのか』。前々回から3回にわたり、本書解説者の作家/政治史研究家、瀧澤中氏より本書の解説をしていただきます。
市販のCDも出したピアノの名手・シュミット
福田赳夫が「どうしても欠かせない」として、OBサミットに誘った「盟友」ヘルムート・シュミット。
旧西ドイツで8年余にわたり政権を維持した“鉄人宰相”は、芸術にも造詣が深かった。
シュミットが描いた絵画が絵はがきで売り出されたこともあったし、1981年にモーツァルトのピアノ協奏曲などを弾き、日本では東芝EMIからCDが発売された。
青年時代は地獄の独ソ戦を最前線で戦い、その凄惨な記憶は晩年まで忘れることがなかったという。戦後は再建されたドイツ社会民主党で頭角を現し、院内総務や国防大臣などを経て首相になった。
彼は左派には珍しく、安全保障と経済政策では極めて現実的な政治家でであった。
また、なにより常に自らを省みる政治家であった。
ハンブルク州の内務長官時代。エルベ川氾濫に際してシュミットは国防軍や同盟諸国の軍隊などを動員し、少ない被害で収めることができた。だがこれは当時のシュミットの権限を大きく上回るもので、シュミットは高い評価を得たにもかかわらず、「不法な方法も、いったん始めてしまえば、やり続けることはいかに容易なことか」と反省をしている。
彼は「結果さえよければよい」、とは考えなかった。ここにシュミットの政治家としての良心を強く感じるのである。