「もうこれ以上は働けません」という女性たちの本音

 女性活躍推進にまつわる誤解のひとつとして、野村さんは著書(*7)の中で、「女性は管理職になりたがらない」といった男性社員の考え方を挙げている。

*7 野村浩子著『女性リーダーが生まれるとき』(光文社 2020年3月刊)より

野村 「女性が管理職になりたがらない」「管理職にふさわしい女性がいない」とよく言われますが、リーダーになる意欲に、男女間で大きな差はないということが、私が25社2500人を対象に行った調査分析で明らかになりました。リーダーになる意欲に差はないものの、昇進意欲には男女差があります。女性が「管理職になりたくない理由」として多いのは「家庭生活との両立ができないから」というもので、その裏付けとして、今回のコロナ禍で、「ケア労働が女性に偏りすぎていること」が分かりました。労働市場での「ケア労働」は、介護や保育施設などでケアワーカーとして働く人の労働を指しますが、もうひとつ、各家庭で家族をケアするための無償労働をケア労働と呼ぶこともあります。有償と無償の両方でめいっぱい働いている女性がたくさんいて、OECD諸国のデータでは、有償労働と無償労働を足した時間は、日本の女性がいちばん長くなっています。女性活躍推進を国や企業が推奨しても、「もうこれ以上は働けません」という女性の本音もあるのです。

『男女共同参画白書』での調査データでは、年齢の低い男性ほど、家事・育児参加に抵抗を感じていないという傾向が表れ(*8)、世代による意識の差異が、「ケア労働」の女性への偏りを是正していくようにも思えるが……。

*8 『男女共同参画白書』(令和5年版/2023年6月 内閣府男女共同参画局)より

野村 働き手の世代交代で、就労に対する価値観や家庭内のケア労働のバランスは変わっていくと思いますが、問題は、行動を左右するような税制や社会保障制度が存在していること。いわゆる「年収の壁」です。103万円以上、106万円あるいは130万円以上の収入にならないように女性が就業調整しているのです(*9)。年収の壁は、まるで、国が「そんなにたくさん働くと損をするよ」と、働く女性の有償労働を制限し、無償労働に導いているかのようです。女性活躍推進のスピードを上げるためには、そんな社会の仕組みを変えなければいけません。

*9 年収が103万円を超えると所得税がかかり、従業員101人以上の企業では年収106万円、100人以下では130万円を超えると社会保険料がかかる。