非正規雇用を受け入れざるを得ない女性に対して

 書籍『女性に伝えたい 未来が変わる働き方 新しい生き方のヒントが見つかる、二極化時代の新提言』の冒頭で、野村さんは次のように記している。

---
働く女性の二極化がいわれて久しい。「男性並み」に仕事のチャンスを得て経済的にも恵まれた女性が増える一方で、低収入で将来を思い描けない非正規の女性もまた増えている。
---

「一億総活躍社会の実現」を国が提唱する中で、「非正規雇用」を不本意に感じている女性も多くいることを忘れてはならないだろう。

野村 退職した人を再雇用するような「雇用の流動化」を企業は高めるべきだと思います。また、社会の仕組みとして「年収の壁」があるので、どうしても非正規雇用を選ばざるを得ない方もいます。私は自著で、子ども2人を育てながら介護施設で働く女性を事例として挙げました。その方は仕事意識がとても高く、資格取得の勉強もしているのですが、「年収の壁」で、働く時間を調整しています。なぜなら、夫が長時間労働で、家事・育児のすべてを自分が担わなければならないから。「不本意な非正規雇用」にはさまざまな要因がありますが、企業の雇用姿勢に加え、社会制度を見直すことは急務でしょう。

 なかでも、配偶者のいない不本意非正規の方は、本当に大変です。つい最近取材した社員数十人の地方企業で役員を務める女性は、シングルマザーとなり、子ども2人を育てていくために、地元のハローワークに駆け込んだところ、現在(いま)勤める会社を紹介されたといいます。最初はアルバイトとして入社、頑張りが認められ、正社員に登用され、子どもが小学校高学年になった頃に泊まりの研修に送り出してもらい自信をつけ、その後、管理職となりました。正社員登用を進めるような経営者との出会いが鍵となりました。ハローワークやNPOの支援を受けたり、公的な研修に足を運んだりするなどして、次のステップにつながる情報を手にすることが大切だと思います。

 ダイバーシティ&インクルージョンの礎となる女性活躍推進――女性をはじめ、さまざまな人が、それぞれの価値観で柔軟な働き方をする職場で大切なことは何か?

野村 ダイバーシティ・マネジメントでは「対話」が不可欠です。さまざまな働き手を迎え入れても、「対話」がないと、インクルーシブな組織にはなりません。

 まずは、経営トップと社員の対話。1対1の対話でなくても構いませんが、お互いが同じ地平に立って話すことが大切です。女性活躍推進についても、経営者が語ることなくして始まりません。Whyから、What、Howを――「なぜ、我が社は女性管理職の登用が必要なのか?」という「なぜ」を、経営トップがメッセージしていくこと。インターネットで検索して出てくるような通り一遍のものではなく、各企業に見合った理由が望まれます。繰り返し、繰り返し……すべての社員を対象に、研修やランチ会の席でもメッセージし、対話を進めることで社内の風土は変わります。

 もちろん、上司と部下の対話も重要です。社員一人ひとりが置かれている、家庭生活と仕事の両立の程度を共に理解すること。子育てや介護の状況は時々刻々変化しますから、半年や数カ月に一度程度の対話では足りません。管理職自身が、「かつて、私はこんな失敗をしました。こういうことがあって嬉しかった」などと、自己開示をしていくこともポイントです。対話の手法について、人事部がセミナーを開くといったサポートも有効でしょう。