女性活躍推進のスピードがなかなか上がらない原因

 多数の著書がある野村さんは、コロナ禍前には、書籍『女性に伝えたい 未来が変わる働き方 新しい生き方のヒントが見つかる、二極化時代の新提言(*4)』を発表した。その刊行時に行われた講演の主催者は「(野村さんの講演内容は)すべての話題が経験や調査に裏付けられており、圧倒的な説得力が会場中を魅了した」と述べている(*5)。常に深く細やかな取材で、企業経営層、人事担当者、働く女性の声を拾い上げている野村さんから見て、はたして、日本社会全体の女性活躍は進んでいるのだろうか?

*4 野村浩子著『女性に伝えたい 未来が変わる働き方 新しい生き方のヒントが見つかる、二極化時代の新提言』(KADOKAWA 2017年2月刊)
*5 株式会社Woomax主催「ダイバーシティ推進セミナー」(2017年7月8日)の基調講演レポートより

野村 前進はしています。ただ、スピードがあまりにも遅いですね。今年(2023年)、日本のジェンダー・ギャップ指数(*6)が過去最低の125位に落ちてしまいました。海外で取材をしてみると、欧米諸国は女性管理職比率が3、4割に達していてもなおジェンダー・ギャップに強い危機感を持っていて、「変化のスピードを上げないと、国力が弱まる」という考えでアクセルを踏み込んでいることが分かります。一方で、日本はアクセルの踏み込みが足りません。

*6 ジェンダー・ギャップ指数は、世界経済フォーラム(World Economic Forum:WEF)が毎年発表しているもので、「経済」「政治」「教育」「健康」の4分野14項目の要素から構成されている。世界各国ごとの男女格差を知る目安にもなっている。

 ダイバーシティ&インクルージョンの推進、コロナ禍による柔軟な働き方の実践、人的資本経営への取り組み……そうした状況下でも、女性活躍推進のスピードがなかなか上がらない理由は何か。

野村 高度成長期の「性別役割分業モデル」――「男性は仕事・女性は家庭、職場での女性は補助的な仕事」というモデルで経済的成功を収め、世界から賞賛された日本は、これをバブル崩壊まで引きずってしまったことが大きいです。一方の欧米諸国は70年代、80年代から「共働きモデル」に転換し、社会の仕組みや企業の人事制度を変えて、女性のキャリア形成に力を入れました。日本はそうした動きに後(おく)れをとってしまった。ある方がうまいたとえをしています――「サッカーのワールドカップやWBCの日本代表チームを東日本出身の選手だけでつくることはあり得ない。西日本からも選ばずに代表チームをつくっても世界では勝てない」と。ビジネス社会における女性活躍は、日本が世界との競争力を保ち、各企業が生き残るために不可欠なのです。

「東日本の代表選手だけで良い」と考えるような、自企業の女性活躍をそれほど望まない経営者もいるのではないか?

野村 しかし、もはや、そうした考えは通用しなくなっています。多くの職場は労働力が足りない、加えて日本人男性中心の均質な組織では新しい商品やサービスも生み出せないのですから、経営層や管理職は意識を変えざるを得ません。

 私が危惧しているのは、地方の中小企業です。この1年あまり、全国各地の企業とそこで働く女性を取材して回ったところ、地方自治体の女性活躍推進の担当者が、頭の切り替えのできない社長の存在に困っていました。たとえば、ダイバーシティフォーラムといったイベントにまったく興味を示さず、女性幹部や管理職候補者向けの研修を企画しても反応がない、と。「うちは人手が足りないから、研修に参加させる時間はない」「研修に送り出したら、女性社員が生意気になって帰ってきた」などと言われるそうです。10年前や20年前の話ではありません。つい最近の話です。