「女性が“働きがい”を感じながら、生き生きと働ける職場を増やしたい。そして、日本全体を女性の能力と意欲が活かされる国に変えていきたい」――こうしたビジョンで、各地の自治体とともに“働く女性の課題解決”に向けて奮闘している株式会社Will Lab代表取締役の小安美和さん。前職時代に、「女性×働く」をテーマとしたプロジェクトに携わるなかで「東京に比べて、地方(*1)はアンコンシャス・バイアス(無意識の偏見)も、働く上での男女格差(ジェンダーギャップ)も大きい」という現実に直面し、地方で働く女性の就労支援や人材育成に本腰を入れるべく独立した。女性活躍推進法の施行から5年。「女性×働く」の変化は東京にとどまらず、地方にも広がっているのだろうか。兵庫県豊岡市の事例を中心にお話をうかがった。(フリーライター 棚澤明子、ダイヤモンド社 人材開発編集部)
*1 国土交通省の定義では、「地方」は東京圏・大阪圏・名古屋圏の三大都市圏を除く地域を指す。
中小企業の多い地方において、 “女性活躍”は…
Will Labの小安さんが関わっているのは、札幌市や横浜市といった政令指定都市を除くと、岩手県釜石市・兵庫県豊岡市・兵庫県朝来市・富山県南砺市など、人口10万人未満の都市が多い。こうした地方都市においては、進学などで県外に出た女性が、都市部などの企業にそのまま就職し、故郷(地方都市)には戻らない傾向が見られる。Uターン就職を選ばない理由として、地方には女性にとって働きやすく、働きがいのある企業や一人ひとりのポテンシャルを生かすマネジメントをしている企業が少ないということが考えられるが……。
小安 女性が企業の中で活躍できているかどうかは “東京などの大都市圏か地方か”に加え、“大企業か中小企業(*2)か”の差異があると思います。というのも、大企業では女性活躍推進法の施行やESG投資への対応などが強制力となって、この数年でジェンダーギャップ解消の取り組みがされてきているのですが、従業員数100人以下の企業には「女性活躍のための行動計画(一般事業主行動計画)」の策定と公表が義務づけられていないため(*3)、経営者の意識がよほど高くない限り、変革に向きづらい傾向にあるのです。その結果、“中小企業が多い地方(*4)=女性活躍が進まない地方”ということになっているのではないでしょうか。
*2 中小企業庁「中小企業・小規模企業者の定義」参照
*3 平成28年(2016年)に成立した「女性活躍推進法」は、労働者数301人以上の事業主に女性が活躍できる行動計画を策定・公表するよう義務づけている。令和元年(2019年)に法改正され、労働者数101~300人以内の事業主も令和4年(2022年)4月1日から義務の対象となる。100人以下(令和4年3月31日までは300人以下)の事業主は行動計画の策定・届出等が努力義務になっている
*4 中小企業庁ホームページ「中小企業の企業数・事業所数」参照
法の強制力から外れる中小企業が多いという状況とともに、地方は大都市圏よりも性別役割分担のアンコンシャスバイアス(無意識の偏見)が強いと推察できるような調査結果(*5)もある。たとえば、東京は住民の出身地がさまざまで、「○○はこうあるべきだ」という共通概念が形成されづらいが、地方は地縁・血縁関係の濃いコミュニティが目立つこともあるため、偏見を形成する同調圧力が働きやすいのではないか。大都市圏・地方にかかわらず、企業の“女性活躍”には、まず、ジェンダーのアンコンシャスバイアスを減らす必要があるだろう。
*5 令和3年度 性別による無意識の思い込み(アンコンシャス・バイアス)に関する調査研究(内閣府男女共同参画局)、「LIFULL HOME'S総研」による研究報告書「地方創生のファクターX~寛容と幸福の地方論~」など
小安 企業におけるアンコンシャスバイアスを解消するために、私が各地で提案していることが3つあります。ひとつ目は、調査などを通して地域の課題を可視化し、政策に落とし込むこと。2つ目は、浮き彫りになった課題を共有して、経営者や管理職の意識改革を促すこと。3つ目は、女性自身の意識変革を促すことです。
地方で働く女性とお話ししていて痛感するのは、地方企業には、管理職として生き生きと仕事をしているロールモデルが少ないということ。家事育児負担があるなか、会社で管理職として活躍するなんて「イメージすらわかない」とおっしゃる方がたくさんいらっしゃいます。ロールモデルがいないなかで管理職になれば目立つでしょうし、「女性なのに……」という無意識の偏見もあるかもしれません。そうした不安感や孤独感は決して小さなものではありません。「がんばって管理職を目指しましょう!」と言ってもハレーションしか起きません。また、女性が働くことのゴールは管理職に就くことだけではありません。「そもそも、あなたはどうありたいですか?」と、企業は一人ひとりの姿勢を理解していくことが大切です。“女性活躍”と言えば、管理職をつい連想しがちですが、女性の誰もが自分のありたい姿を軸に働くことを表すような、“女性活躍”に替わる新しい言葉が必要かもしれません。
小安美和(こやす みわ)
株式会社Will Lab (ウィルラボ)代表取締役、株式会社インフォバーン 社外取締役、株式会社ラポールヘア・グループ社外取締役、内閣府男女共同参画推進連携会議有識者議員
東京外国語大学卒業後、日本経済新聞社入社。2005年、株式会社リクルート入社。エイビーロードnet編集長、上海駐在などを経て、2013年、株式会社リクルートジョブズ執行役員 経営統括室長 兼 経営企画部長。2015年より、リクルートホールディングスにて、「子育てしながら働きやすい世の中を共に創るiction!」プロジェクト推進事務局長。2016年3月、同社退社。6月、スイス IMD Strategies for Leadership(女性の戦略的リーダーシッププログラム)修了、2017年3月、株式会社Will Lab設立。岩手県釜石市・兵庫県豊岡市・朝来市などで女性の雇用創出、人材育成等に関するアドバイザーを務めるほか、企業の女性リーダー育成に取り組んでいる。2019年8月より内閣府男女共同参画推進連携会議有識者議員。