東京都豊島区の高野之夫区長が昨年12月、西武池袋本店の存続を求めて地権者の西武ホールディングス社長に提出した嘆願書は、メディアに取り上げられ賛否を呼んだ。池袋駅前には既にビックカメラが出店していることから、「区長はビックカメラに配慮し、ヨドバシカメラ出店に反対している」との批判もある。年始に新型コロナウイルスに感染し、現在も療養中の高野区長が電話での緊急インタビューで語った“真意”を、特集『セブン解体 池袋動乱編』(全6回)の#5でお届けする。(ダイヤモンド編集部副編集長 重石岳史)
「池袋の文化やまちづくり構想を壊しかねない」
西武池袋本店低層階へのヨドバシ出店に反対
――区長は昨年12月、西武ホールディングス(HD)の後藤高志社長宛てに西武池袋本店の存続を求める嘆願書を提出しました。ヨドバシカメラの出店に反対なのでしょうか。
反対ではありません。私たちは、そこまで口を挟むことはできないと思っています。
ただ豊島区は財政破綻危機(1999年)や消滅可能性都市への指定(2014年)など、幾つものピンチがありました。それらを乗り越え、国際アート・カルチャー都市構想を打ち出す(15年)など、大変長い時間をかけて一歩ずつ、文化によるまちづくりを進めてきたのです。昔は「暗い」「怖い」「汚い」と言われた池袋のまちも、ずいぶん変わったと思います。
西武池袋本店は、その文化戦略の一翼を担い、この地域をけん引してきた歴史があります。文化を軸に人々を引き付け、池袋の品格をつくり上げる役割を果たしてくれたと私は思っています。
その西武池袋本店の低層階に、ヨドバシさんが出店すると報道されています。本当にそうなれば、これまで育んできた池袋の文化やまちづくり構想を壊しかねない。私はそんな危惧を抱いています。
ヨドバシさんの池袋出店について、決して反対しているわけではありません。ただ、これまでの経緯をご理解いただき、整合性のあるまちづくりに参加していただきたい。
――なぜ低層階への出店に反対するのですか。
低層階は、池袋駅に直結する「玄関口」であり、池袋の「顔」だからです。池袋イコール家電のまちというイメージが強くなり過ぎると、富裕層を含む幅広い階層の方々が、池袋を素通りして銀座だ、新宿だ、という形になってしまうことを危惧しています。
西武さんだけでなく、東武鉄道さん、商店街や町会の皆さんと一生懸命、魅力あるまちをつくろうと努力を積み上げてきました。消滅可能性都市から大転換し、「文化創造都市宣言」も表明しました。「区長が余計なことを言うんじゃない」とも言われましたが、住民の声を聞き入れてまちづくりを進めるのは行政トップの仕事です。
池袋で生まれ育った高野区長。西武池袋本店の低層階へのヨドバシ出店に反対を表明し、「行政の越権行為」といった批判も浴びた。さらに池袋で創業したビックカメラに「忖度」し、ヨドバシを排除しているとの疑念もある。ビックカメラとの関係、嘆願書を出した西武HDの後藤社長への思い、そしてセブン&アイ・ホールディングスがそごう・西武の全株式を譲渡した場合の次なるアクションについて、次ページで高野区長に聞いた。