従来型の通信教育というダイレクトビジネスによる顧客と一対一の関係性を超え、会員コミュニティとしての子育て・学びのデジタル化に新たな価値提供のチャンスを見いだしているベネッセコーポレーション。
電通のブランド戦略コンサルタントの小西圭介氏は、ベネッセならではの、「人」を核にしたブランド戦略に注目する。
「ソーシャル時代のブランドコミュニティ戦略」対談シリーズの第3回は、ベネッセコーポレーション教育事業本部・グローバル教育事業部長の橋本英知氏をお招きし、同社が実践する顧客との「共有価値の創造」に向けた取り組みについて、掘り下げた議論を交わした。

社会価値の創造と
事業成長を両立するベネッセ

小西:ベネッセグループは「よく生きる」というメッセージに基づいて、子育てや教育、生活や介護分野まで幅広く展開していますが、社会的な課題解決と事業の成長を両立させるという、その事業モデルは非常にユニークです。

橋本:確かに、ベネッセは事業そのものを通じて社会価値を生み出すという、小西さんの著書にもあるCSV(Creating Shared Value:共有価値の創造)を実践している企業と言えるかもしれません。

橋本英知(はしもと・ひでとも)
株式会社ベネッセコーポレーション
教育事業本部 グローバル教育事業部長
1998年同社入社。新商品開発、新規事業開発、経営企画などを経験後、CMO補佐として、マーケティング戦略・ブランドコミュニケーション・情報基盤・組織人事・コンプライアンス・業績管理などに広く従事。
現在は、幼児・小学生向けの英語・グローバル教育事業を担当。
データベースマーケティング、ブランドマーケティング、CRM領域での活動を中心に、講演・寄稿など多数。

 会長の福武總一郎は「自分や家族が使いたいと思うサービスを提供する」、「年をとればとるほど幸せな社会を実現する」といったビジョンから事業を発想してきましたし、社員も、顧客や社会の課題解決を、事業を通じていかに支援するか、という使命感がモチベーションの高さにもつながっています。

 一つの例ですが、東日本大震災が起きたとき、CSR部門ではなく、事業の現場から即座に、さまざまな被災地支援の取り組みが自発的に起こってきました。震災が、われわれの事業が支援する、子どもの未来の可能性を奪うようなことがあってはならない、という気持ちがあったからでしょう。これは「こどもの未来応援プロジェクト」という形で今も続いています。

小西:あのときは、震災直後から「非常時の子育て情報」をツイッターで発信するなど、事業リソースを活かした迅速な取り組みに感動しました。

 それにしても、CSVの実践は容易なことではありません。教育をはじめ、いわゆるパブリックサービスのドメインで事業を展開してここまで成長した企業は世界にも稀です。成功してきた鍵はどこにあるのでしょうか。

橋本:創業者の言葉として、「顧客中心・信用第一」というのがあります。一見ふつうの言葉に聞こえるかもしれませんが、徹底して「顧客主語」の視点に立つことが、行政などに満たせていない価値を生み出しているのではないでしょうか。

 たとえば、われわれが提供しているのは自学自習を軸とした生徒の「学び」です。また、子育ても「育児」を教えるのではなく、当事者である「親子の成長」に寄り添う、といったスタンスです。