小西:今はマスマーケティングからパーソナルマーケティングへの進化がよく言われますが、ベネッセは、元々ダイレクトな個の関係にもとづく会員コミュニティを拡大することで、結果的にマスに到達した企業だと言えるかもしれません。私が「ブランドコミュニティ戦略」の着想を得たのも、ベネッセの事業のお手伝いをして学んだところが大きかったと思います。

 ところで、ダイレクトという意味では、デジタル化が進む近年のコミュニケーション環境の変化をどう捉えていますか?

デジタル化による、
ダイレクトサービス・マーケティング進化

橋本:デジタル化は単なるメディアの話だけではありません。われわれのダイレクトサービスやマーケティング自体を進化させないといけないと思います。
もともとお客様とのダイアログ(双方向のコミュニケーション)をやりたくてダイレクトマーケティングを行ってきたわけで、デジタルでは双方向性をより強く、早くすることが可能となります。

ベネッセコーポレーションの「人ならではのサービス」をデジタルで強化できないかという発想が新しいコミュニケーションを生み出している。

小西:そして、教育や子育ての教材や情報誌などの「コンテンツ」の提供の仕方もデジタル化で拡がりつつありますね。たとえば、2011年にiPadベストアプリとグッドデザイン賞を受賞した「空想どうぶつえん」などは、さすがベネッセという高品質な教育コンテンツでした。

橋本:単純なデジタルのお絵描きツールではなく、自発的に触って遊びたくなり、素材を組み合わせることで動物の見立てをしたり、できあがった作品を共有したりなど、こどもの創造力を拡げるデジタル教材のプロトタイプとして開発しました。

小西:ところで、顧客の情報接触やコミュニケーション環境が変化する中で、ダイレクトメールなどの従来の手法がなかなか効かなくなっているともお聞きしています。企業からの一方的な販促メッセージに、顧客が反応しなくなっているのでしょうか?

橋本:そうですね。DMを進化させていくことは、われわれの大きな課題です。DMが本来持つべき、本来のダイアログの機能が弱くなってしまっている。顧客が拡大するにつれ、「規模の経済」的な発想が強くなり、「人」が見えなくなっているかもしれません。