「ドリル優子」と皮肉られても…小渕優子こそ“初の女性首相”の有力候補である理由記者会見する自民党の小渕優子選対委員長=13日午前、東京・永田町の同党本部 Photo:JIJI

2014年に政治資金規正法違反のスキャンダルが発覚し、経産相辞任を余儀なくされた小渕優子氏。その小渕氏が、自民党の役員人事で選挙対策委員長に任命された。約9年ぶりの要職復帰となる。だが小渕氏といえば、不祥事の発覚後に「証拠隠滅のためにパソコンのハードディスクをドリルで破壊した」という報道が飛び交い、いまだにネット上で揶揄(やゆ)されている状況だ。だがそれでも、筆者は小渕氏が「初の女性首相」になれる可能性を秘めていると考える。その理由とは――。(立命館大学政策科学部教授 上久保誠人)

選挙対策委員長に
小渕優子氏を起用の理由とは?

 去る9月13日、岸田文雄首相が内閣改造および党役員人事を行った。今回の人事では、安倍派、麻生派、二階派、茂木派など、各派閥の人材を幅広く登用しているのが特徴だ。党内に“敵”を作らず、政権の基盤を安定させることを重視したとみられる。

 すでに各所で詳しく報じられているため、本稿では全員の紹介は避けるが、閣僚19人のうち初入閣は11人。13のポストを入れ替えるなど、「派閥のバランス」を重視しながらもフレッシュな顔ぶれをそろえた。

 岸田内閣・自民党は新体制の下で、「異次元の少子化対策」や防衛費の大幅増、マイナンバー制度の改善、経済安全保障体制の確立といった課題に取り組んでいくことになる。

 筆者が今回の人事で注目しているのは、岸田首相が女性閣僚を内閣改造前の2人から5人に増やしたことだ。女性閣僚数としては、第1次小泉純一郎内閣、第2次安倍晋三改造内閣と並び過去最多である。

 その面々を順に見ていくと、「ポスト岸田」の有力候補の1人である高市早苗・経済安全保障担当相は留任となった。高い専門性と実務能力を評価されての判断だろう(本連載第311回p3)。

 そして、岸田首相が特に重視する外相には、元法相の上川陽子氏が起用された。上川氏は東京大学卒・ハーバード大学大学院修了で、法相在任時にはオウム真理教の元代表、麻原彰晃(本名:松本智津夫)元死刑囚らの死刑執行命令書にサインをした人物である。今回の人事でも、その度胸と手腕が評価されたとみられる。

 日本はこれまで、女性の人権問題について国際社会から厳しく批判されてきた(第333回)。その中での上川外相の抜擢(ばってき)には、日本における女性政治家の活躍を国際社会に強くアピールする狙いもありそうだ。

 また、副大臣を経験していない自見英子(じみはなこ)・前内閣府大臣政務官は地方創生担当相に、加藤鮎子・前国交大臣政務官はこども政策・少子化担当相に抜擢された。この二人の起用に関しては、岸田内閣の支持率低迷が続く状況を打開するために、政権の清新さをアピールする思惑があるのかもしれない。

 そして、復興相には無派閥の土屋品子氏が初入閣した。土屋氏は聖心女子大学を卒業後、栄養関連の専門学校で学んだ異色の経歴を持つ。栄養士・製菓衛生師・調理師などの資格も保有しているとのこと。この人物の登用にも、「ジェンダー平等」をアピールする狙いがあると推察される。

 一方、党役員人事に目を向けると、選挙対策委員長には小渕優子氏が起用された。この判断は、一連の女性閣僚の登用とは毛色が異なるものだ。