経産相在任時に不祥事が発覚
しばらく裏方に徹してきた小渕氏
というのも、過去の人事も含めて、自民党による女性政治家起用は(1)華やかさと人気を内閣支持率に取り込むこと、(2)「女性の社会進出」に積極的に取り組んでいると世間にアピールすること――の2点を主な目的としてきた。
もちろん、それは決して悪いことではない。女性を積極起用する中で、高市氏をはじめ、野田聖子・前こども政策担当相、小池百合子・現東京都知事など、手腕を身に付けて実績を上げる女性政治家が続々と台頭してきた(第285回)。世間へのアピールにとどまらず、優秀な人材の輩出につながる効果もあったといえる。
だが、今回の小渕氏の起用は、こうした文脈からは逸脱している。それどころか、内閣支持率を下落させる懸念材料になりかねない。
小渕氏は知っての通り、第84代総理大臣である故・小渕恵三氏を父に持つ世襲議員だ。戦後最年少の34歳9カ月で初入閣し、内閣府特命担当相として少子化対策や男女共同参画などに従事。14年には経済産業相に就任し、順調なキャリアを積み重ねていた。
ところが、経産相在任時に政治資金規正法違反のスキャンダルが発覚し、辞任を余儀なくされた(第93回)。嫌疑不十分で不起訴となったが、それ以降、小渕氏は閣僚に就いていない。党組織本部長など、どちらかといえば裏方といえる仕事で汗をかいてきた。
そんな「スネに傷持つ身」である小渕氏が、今回久しぶりに要職に起用されたわけだ。
だが小渕氏は、経産相就任前に文部科学大臣政務官や財務副大臣の経験はあるものの、それ以外は政治家として顕著な実績があるわけではない。経済安全保障の専門家として存在感を見せる高市氏や、こども家庭庁の設立に携わった野田氏と比べると見劣りする。
政治家としての「修羅場」の経験値も同様だ。悔しい結果に終わったものの、高市氏、野田氏は初の女性首相を目指して総裁選を戦った経験がある。特に野田氏は「郵政造反議員」として05年の郵政解散総選挙において小泉首相(当時)に反旗を翻し、選挙区に「刺客候補」を立てられる苦境を生き残った。
それに対して、小渕氏は元首相の令嬢として、政界の先輩からかわいがられてきた印象だ。最年少の閣僚起用や、経産相への抜擢は、能力や業績を高評価された人事というよりも、先輩方の寵愛(ちょうあい)が反映された結果だと思えてならない。
もちろん、高市氏や野田氏も21年に「NTTとの会食問題」が取り沙汰されるなど不祥事もあった。両名とて“清廉潔白”というわけではないが、やはり政治家としての実績・経験は小渕氏を上回っているとみてよいだろう。
そんな中で下された、今回の人事。小渕氏の抜擢は「参院のドン」と呼ばれた故・青木幹雄氏の「遺言」に基づくものだという見方が強い。だから筆者は「従来の女性登用の文脈から逸脱している」と述べたのだ。