LGBT法が成立するなど、日本政府が「マイノリティーの権利保障」に力を入れ始めた。その背後では、性差別解消に向けて動くよう自民党幹部に働きかけたり、国際連合に日本の課題を提言したりする「市民団体」などの存在が一役買っている。だが本来、こうした団体の一部は左派野党と共闘してきたはずだ。自民党が力を増し、左派野党の退潮が進んでいる今、なぜ市民団体は逆に影響力が増しているのか。矛盾した構図の裏側を解説する。(立命館大学政策科学部教授 上久保誠人)
「マイノリティーの権利保障」を求める
市民団体の動きが活発化
性的少数者(LGBT)への理解を増進し、差別を解消することを目的とした「性的指向及び性同一性の多様性に関する国民の理解の増進に関する法律」(以下、LGBT法)が6月16日に国会で成立した。
この法律は元々、2021年の東京オリンピック・パラリンピック前の成立を目指していた。当時は自民党内の反発を受けて、なかなか法案の国会提出はならなかったが、徐々に風向きが変わっての成立だった。
例えば、23年5月に日本・広島で開催された主要7カ国首脳会議(G7サミット)の首脳声明には「(性的少数者を含むあらゆる人々が)生き生きとした人生を享受できる社会を実現する」という文言が含まれ、国際的にLGBTに対する差別解消の機運が高まっていた。
そうした経緯もあってLGBT法は成立したものの、LGBTを巡る法整備に関しては課題が山積している状況だ。
例えば法成立前の23年6月頭には、同性婚が認められないのは「違憲」だとして、複数の同性カップルが国を訴えた集団訴訟の判決があった。その中で福岡地裁は、同性婚が認められない状況について「憲法に違反する状態である」との判断を示した。
同種の訴訟は全国5地裁で起こされており、今回ですべての一審判決が出そろった。しかし、札幌・名古屋が「違憲」、大阪が「合憲」、東京が「違憲状態」と判断が分かれている。同性カップルを“家族”であると法的に認める仕組みづくりは一朝一夕には進まないとみられる。
LGBT法の成立を機に、今後は日本における「マイノリティーの権利保障」を国際的な水準に近づけるための法案が、次々と政治課題に浮上するだろう(本連載第219回)。
LGBT関連だけでなく、「選択的夫婦別姓」制度の導入などの議論が活発化していくはずだ。同時に、各種法案・制度の成立を求める各種市民団体の活動もさらに盛んになりそうだ。
だが、昨今の政局に鑑みると、「市民団体の活発化」が見込まれる現状には違和感もある。