「の」をやたら使う店が多いのはなぜ?
おかしな日本語を使い続けるお店も

 西安市内を移動していたとき、「奈雪の茶」という茶屋の看板を何度か目にした。日本製品と日系企業に対する中国人消費者の信頼をもって「日本ブランド」を偽装した店が近年、たくさん現れたのだ。ユニクロの商標や商品などを模倣する「名創優品」はこうした偽装日本ブランドの代表的な存在として知られている。

 わけの分からない日本語表現、特に「の」をやたらに使うことで、日本語が分からない消費者に日本の企業または日本のブランドだと信じこませる偽装作戦に力を注ぐ。この作戦はこの種の店舗に共通する特徴だ。

 しかし、最近、若い消費者の対日感情の変化を見て、「偽装日本ブランド」の店はこれまでの偽装作戦路線を捨て、相次いで看板の内容を中国語に修正した。

 今回は西安の日程を消化した後、数年ぶりに中部の重要都市・武漢を訪れた。市内にあるショッピングモール、洪山万科広場では、「奈雪の茶」が「奈雪的茶」に変わっていたのを見た。中国の西部と中部の消費者の意識差と、地域によって異なるビジネスの落差を体感した。

 一方、武漢では、菓子パンやケーキなどを販売する「星野麦田」という店もあった。店内は、福王寺明というパン職人が開発した「ホシノ天然酵母」を使って作ったパンがよりおいしくなったとうたう説明文が壁に大きく書かれている。

 菓子パンもケーキも少なくとも見た目では、非常に丁寧に作ってある。使っている用具にも光っているものがある。商品には中国語と日本語による説明が付いている。店員さんも礼儀正しく、好印象の店だといえる。しかし、その日本語の説明は表現が幼稚かつ間違いだらけだ。以下はその一部の事例だ。

●「吸着吃の云朵」
おそらく、ダークチョコレートが入るクリームビスケットのやわらかさを形容していると思う。中国語のセンテンスに「の」を入れることでセンテンスの全体が日本語の表現に変えられたとでも信じていたのだろうかと聞きたくなる。
●「一呼一吸、吟醸香 ふ|っと吸って吟醸の香り」(「ふーっと」を意図したものと思われる)
前半は中国語で、後半はたぶん前者の翻訳文だと思う。しかし、なぜ突然、吟醸酒の香りを連想できたのかは分からない。
●「桂芋おろしチ|ズサンドイッチ」
桂芋は何の食材なのか、さっぱり分からない。

「ふーっと吸って」を「ふ|っと吸って」にしてしまったこの種の誤りを見ると、日本語の分かる人間にチェック作業を依頼していないことが完全にばれてしまったと思う。

 かいがいしく働いている店員たちの姿を見て、私の方が悔しい気持ちに駆られた。案内してくれた地元の友人に、「この店のオーナーさんと接触して、意見交換してみたら。もうすこし丁寧に仕事をすればいい店になれるかもしれないと思う」とあえて提言しておいた。

(作家・ジャーナリスト 莫 邦富)